2016年01月21日

誠志君がお仕置きされます(性愛が生む涙の後の話) 2

「沙希、悪いが、お前の知らない事情が」
 言いかけた誠志ののど元に、いつの間にか走り寄っていた沙希のナイフが、押し当てられた。
 しかも、高身長の誠志の胸倉を、つかんでいる。
「・・・黙れ。クソ兄貴が。私より先に、要様をやりやがって・・・」
 下から誠志を睨み付ける沙希の様子が、一変していた。
「お!久しぶりに見たな。キレ沙希。誠志、こうなった沙希は、止まらないぜ」
 おかしそうに笑う要は、
「そんじゃ、お二人さん、ごゆっくりー」
 そう言って、手を振って出て行こうとしたが、その襟首を、誠志に鷲掴みにされた。
「待て、要。おい、沙希。俺だけを怒っているが、要は、お前の2条件を、とっくに破っているぞ。こいつは、お前の嫌いな愛のないセックスをやっている。しかも、両手指じゃ足りないほどの回数をな」
(誠志!お前、何、オレを巻き込んでんだよ!)
 要が声をひそめて、誠志に叫んだ。
(沙希をおさえられるのは、同じ破壊系の要だけだからな)
(いやいや、オレ、沙希を殴ったりできねぇよ。しかも、理事長のこと、ばらしてんじゃねぇよ。オレがなんで、黙ってたと思ってんだ。爆弾娘に話したら、何するかわかんねぇだろが!理事長のところに、突進していくぞ!)
(名前を出さなければ、誰かまでは特定できはしない)
(テメェへのお仕置きなんだから、テメェだけで受けろ)
 そこまで言った瞬間、顔を寄せて話していた要と誠志は、とっさに顔を、のけぞらせた。
 二人の間を、破壊の力で強化された沙希のナイフが、剛速球で通過した。
「お兄様、要様。無理やりセックスをやったやられたのお二人なのに、どうしてそんなに、仲良し距離なんですの?私だけのけものだなんて、ひどいですわ。私も混ぜて下さらないと、寂しいですわ」
「さ、沙希・・・」
 沙希が、ものすごいオーラを放ちながら、両手に、持てるだけのナイフを持って、かまえていた。
「私だって、お兄様と一緒に、要様と3Pしたいですわー!」
 沙希が叫んだ瞬間、沙希の能力が爆発し、窓という窓が割れ、要のマンションに嵐が起きた。

 ちなみに、沙希のいう3Pは、S属性の香守兄妹で、要を攻めるの意味。


「わ!!」
 10階の部屋で寝ていた結人が、下からの衝撃で、ベッドからころんと、転がり落ちた。
「え・・・。な・・・に・・・?」
 続けて、ドンドンドンと激しくなる破壊音の連続に、結人は、ベッドのふちから、頭だけをのぞかせ、びくびくと震えた。


「今日のお兄様のパンツの色は、濃紺ですのね。さすが、お兄様。セクシーですわ」
 沙希は、愛用のエロ手帳に、先ほど調べた、要と誠志のパンツの色と形を、細かく書き込んだ。
 キレモードに入った沙希は、激しすぎる破壊音に助けに入った要の秘書たちもぶちのめし、沙希が大好きなイケメン要&誠志の二人の服をむき、さんざんセクハラして、ようやく気持ちが落ち着いたようだ。
 今は、押し倒した要と誠志の上に、かわいく座っている。
「要様、お兄様、私、のどが渇いてしまいましたわ。お茶にいたしましょう。私、おいしいお菓子を持ってまいりましたの」
「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・」
「イケメン二人にかしずかれる、午後3時のお茶会。きっと、ステキな時間になりますわ」
「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・」
「あれ?どうなさいましたの?かーなーめーさーまー?おーにーいーさーまー?」
 ツンツンとつついてみても、要も誠志も、起き上がらなかった。
「んーと、これは」
 沙希は、美少女らしく小首をかしげてから、答えを思いついた。
「私の大好きなイケメン二人が動けないということは、私がお二人のために選んだ、過激パンツを、はかせてもいいということですわね」
 沙希は早速、なんの事態を想定して持ち歩いているのか、鞄から、布面積がほとんどない男性用エロ下着を、楽しそうに取り出し始めた。
 そんな、ものすごく楽しそうな沙希に見つからないように、要と誠志が、ごそっと動いた。
(・・・おい、誠志)
(ああ・・・)
(生きてるか?)
(なんとかな・・・)
(逃げるぞ)
(分かっている。・・・まったく。要、お前が、沙希を連れてくるからだ)
(テメェが、エロく育てるから、悪いんだろうが)
(あれは、勝手に育った)

誠志君がお仕置きされます(性愛が生む涙の後の話) 1

このお話は、深淵の誠志×要『性愛が生む涙』の後の
お話になりますo(⌒0⌒)o
エロシーンじゃないコミカルなお話なので、
こっちに、載せてみました♪
誠志×要が苦手な方でも、楽しく読めるお話になっていると思いますw

深淵『性愛が生む涙』で、要をやった誠志が、お仕置きされる
タイトルそのままのお話ですwww


『誠志君がお仕置きされます』

 要は誠志を、自分のマンションに、呼びつけた。
 9階のリビングに一人でいた要に、誠志は近づいた。
「なんだ?また、やってほしくなったのか?」
 そう誠志が言った瞬間、誠志は背後から、ただならぬオーラを感じた。
 要の寝室のドアが勢いよく開き・・・というか、破壊され・・・いや、粉々に砕かれ、誠志の妹の沙希が、ニコニコと可憐に・・・いや、不敵に笑いながら、現れた。
「私の、だぁい好きな、お・に・い・さ・ま」
「・・・沙希」
 誠志は、嫌な予感を覚えたが、もう遅いようだった。
「お兄様が、要様においたをしたというのは、本当でしたのね」
 沙希のつややかな唇がそう言い終わった瞬間、誠志の頬が切れていた。
 沙希が自分のスカートをめくり、完璧な女性美を誇る太ももに装着していたナイフを、誠志に向って投げつけていた。
 反射的にギリギリで避けたナイフは、誠志の頬と髪を裂き、後ろの壁に刺さっていた。
 要に背中を預けられるほどの力を持った、破壊系能力者の沙希が、本気を出していた。
「要、喋ったのか・・・」
「そっ。だってさ、オレが本気でやったら、誠志死ぬかもしれないし、沙希に代わりにお仕置きしてもらおうと思ってさ」
 ケラケラとおもしろそうに要は笑っているが、誠志がとっさに避けていなかったら、沙希のナイフは、確実に、誠志の眉間に突き刺さっていた。
 要だろうと沙希だろうと、破壊系トップクラスが本気を出したら・・・殺される。
 誠志は、沙希の怒りをとこうと、とりあえず、会話してみることにした。
「沙希、お前は、要が誰とやろうと、かまわないんじゃなかったか?」
「はい、かまいませんわ。要様に幼いころからアプローチしているのに、まだものにできてない私が悪いんですもの。要様のお好きに、お好きなお方と、セックスしてくださったらいいと思いますわ」
「なら、俺が要とやっても、かまわないだろう?」
「はい、もちろんですわ。むしろ、私の大好きなイケメン王子様のお二人のセックスだなんて、ステキですわ。夢のようですわ。天国ですわ。エロと耽美の極みですわ。ぜひ、やってくださいませですわ。・・・ただ」
 沙希の手が、再びスカートをめくり、太もものナイフに触れた。
「それを、私に見せて下さらないなんて、あんまりですわ!!」
 沙希の放ったナイフが、マンションの窓ガラスを、盛大に砕いた。
 なんとかかわした誠志の、心臓があった部分を通過して・・・。
「要様が、誰とセックスしてもかまいませんが、条件が2つですわ!」
「なんだ・・・?」
「一つ!愛あるセックスであること!そして、二つ目!そのセックスを、どんな形でもいいから、私に見せてくれることですわー!」
 そう叫んだ沙希が、突然突進して、要のズボンを、ズボッと引き下ろした。
「なっ!こら、沙希!!」
「お兄様、見てくださいませ!要様の今日のパンツ、黒ですわ。真っ黒ですわ。要様は、楽しい時は、明るい色のパンツ。落ち込んでいる時は、暗い色のパンツと決まってますの。パンツにまでツンデレ要素が溢れているだなんて、さすが私の要様ですわ」
「沙希!オレ、お前に、パンツの色と気持ちの関係性なんて、教えてないぞ。どうやって調べた」
「乙女のカンですわ」
「どんだけエロイ乙女だ、テメェの脳みそは・・・。そして、なぜか、当たってやがるし・・・」
 要がため息をついたが、沙希は、全く聞いてなかった。
 いや、聞こえているが、気にしていなかった。
「要様が、お兄様にヤられた後、黒いパンツをおはきになってるだなんて、要様、笑ってらっしゃるけど、嫌だった証ですわ。だから、私に、ラブラブセックスを見せてくれないお兄様なんて、お覚悟ですわ!」

みんなの休日 12(おまけ)

リクエスト小説『みんなの休日』のおまけ2です♪
『みんなの休日』の中に、書ききれなかったお話ですo(⌒0⌒)o


『みんなの休日』おまけ 2 ~ゲームセンターバトル編~

 結人は、寮の部屋のベッドに、なんだもちゃんのぬいぐるみを置いた。
 とても、大事そうに。
 これは今日、みんなで取ったものだった。
 今日、ゲームセンターに入った時、クレーンゲーム機の中に、大量のなんだもちゃんのぬいぐるみがいた。
 不気味に・・・微笑みながら。
「なんだもちゃんがいる」
 結人はよろこんで近づいたが、みんなは、呆れていた。
「この街は、コイツに侵略されてるのか?」
と。
 それでも、結人がきらきらしているから、みんなで、なんだもちゃんを取ろうと、がんばった。
 けど、なんだもちゃんは、手ごわかった。
 この手のゲームをしたことない結人、密はうまくできず、慣れている泉介も苦戦し、ジャンル問わずやったことがないことでもやると器用にこなす要でもうまく取れず、結人がしょんぼりしだした時、後ろで興味なさげにしていた動かざる山・・・誠志が動いた。
 誠志は、メガネの中心を押しながら、複雑に絡み合うなんだもちゃんのぬいぐるみの位置関係を測定すると、ボタンをトントンと押して、あっさりと取ってしまった。
「なんで、お前が取れんの?」
 目の前で起きた予想外なことに、目を点にしながら見ている全員を無視して、景品出口に落ちてきたなんだもちゃんを、誠志は結人に押し付けた。
 誠志は実は、かなり取れる。
 状況把握能力が高い誠志に、妹の沙希がおねだりして、取らせまくったから。
 沙希は誠志をこき使える、貴重で無敵なつわものだ。
 だが、そんなことを、誠志が口にするはずもなく、
「その気味の悪い物を、俺の車に置いて行ったら、どうなるか分かっているな?」
 それだけを言った。
 言われた結人は、きょとんとしていたが、取ってもらえたのがうれしくて、誠志にとびきりの笑顔を向けた。
「ありがとうございますです」
「せーいしー。お前、何また、おいしいところ、持っていこうとしてんだよ。2回目だぞ、今日」
 要が笑いながら、誠志の肩に手をかけた。
 その逆の手は、結人に見えないように、誠志の脇腹にこぶしを入れて、グリグリしていた。
 完治していない、誠志の傷痕があるところに。
 1回目は許したけど、2回目は許さないようだ。
「要・・・貴様・・・」
「え?なーに?」
 プライドの高い誠志が、不覚にも傷を負わされた自分に腹が立っていることも、そんな傷をいまだに持っていることや、痛がる姿を出す気がないことを分かっていて、要はグリグリしたのだから、要はニヤニヤと、とぼけて見せた。
 そんな要の足を、誠志は、グリグリと踏みつけた。
「いてぇよ、誠志。なんだよ?久しぶりにやるか?相手になるぜ」
「最近、忙しくて鍛えてないお前が、よく言えたものだな」
 2年コンビがそんな不穏なことをしているとは、どんか・・・純粋な1年トリオが気付くはずもなく、
「結人が笑った」
 密が、喜んだ。
「結人、よかったな。なんだもちゃんやで」
 泉介も、喜んだ。
 結人を取り囲んでいると、結人が、手の中のなんだもちゃんを見つめてから、ぎゅっと抱きしめて、また笑った。
「うん!おれ、うれしいな」
「・・・結人」
 みんなが、結人を見て、固まった。
 結人のかわいいさは、なんだもちゃんの不気味さを持ってしても、消せるものではないようだ。


 そんなこんなで、結人の手元にきた、なんだもちゃんのぬいぐるみ。
 結人は、ベッドに飾ったけど・・・、
「うわぁぁぁぁ!!」
 ベッドで寝返りをうった結人から、驚きの声が上がった。
 真っ暗な部屋の中で、なんだもちゃんの目が・・・光っていた。
 なんだもちゃんは、闇の中で真価を発揮する、不気味仕様だ。
「・・あ・・う・・・・あう・・・」
 結人は布団を頭からかぶって、ぷるぷると震えた。
(これは、みんながくれたもので、大事で、かわいいのに、怖いとかだめだ)
 でも・・・怖い・・・。
 なんだもちゃんは、結人の心に、軽いトラウマを作ったようだ。
posted by ちぃ at 16:51| Comment(0) | TrackBack(0) | 【小説】みんなの休日 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

みんなの休日 11(おまけ)

リクエスト小説『みんなの休日』のおまけです♪
それぞれのキャラ、一人一人だったら何をしているかですo(⌒0⌒)o


『みんなの休日~おまけ1~』

結人の休日

 いっぱいご飯を食べた後、体力がないので、猫さんといっしょに、寝ています。
 起きてるときは、もこ太(13話で要が結人にプレゼントした、
 癒しのあざらしの赤ちゃんロボット。命名:結人)の、お世話をしています。
 がんばって勉強してみたりもしますが、3分で寝れます。



密の休日

 無趣味なので、やることがありません。
 ぼんやりしていたら、一日が終わっています。
 かと思ったら、唐突に腕立てをはじめて、体を鍛えたりします。
 部屋の片づけをはじめてみたりもしますが、
 すぐどうでもよくなるので、部屋は結構ごちゃごちゃ。



要の休日

 普段は時間がなくてできない、長く煮込む料理に、挑戦したりします。
 携帯やバイクを改造して、遊んだりもします。
 (装飾するのではなく、自分好みに性能をあげています)
 でも、やりすぎて、使い物にならなくなこともしばしば。
 体を動かすのも好き。
 バスケとか、剣道とか。
 多趣味だけど、器用にこなします。



誠志の休日

 妹の沙希の買い物に、つき合わされたりします。
 マニュアル車が減少している中、あえてマニュアルの操作性を
 好んでいるので、車のカタログを見たりもしています。
 車は、見るのも、運転するのも好き。
 (まだアップしていませんが、そのうち、要に車を壊されるので、新車のチェックも)
 暇つぶし的に、政治や経済番組見て、酷評するのも好き。



泉介の休日

 全寮制生活なので、離れて暮らす両親や姉たちに、電話をかけたりします。
 家族から送ってもらった、荷物と仕送りが入った段ボールを開ける瞬間が楽しみ。
 (いたずら好きの姉たちからの驚愕の品、在中率高し)



黒崎の休日

 けっこうきれい好きなので、よく掃除しています。
 趣味と実益を兼ねて、医学書を読みふけったりもしています。
 医学書の所持数はかなりのものなので、書庫にした部屋だけは
 本の山になってしまい、掃除できずに困っている。



神無理事長の休日

 車を走らせて、懐かしい場所によく行きます。
 そこで、タバコをくゆらせながら、昔のことを思い出しています。
posted by ちぃ at 16:48| Comment(0) | TrackBack(0) | 【小説】みんなの休日 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

みんなの休日 10

「日向結人は、心を閉ざしていたアレらの心を、開いたということか」
 結人がビデオを真剣に見ている生徒会室の廊下側のドア、そこに背を付け、腕を組み、神無理事長がうっすらと笑っていた。
 純粋な子供が、それぞれの形で心を閉ざしていた少年たちの心を開いた、と。
 愚かなことだ、と。
「心を閉ざしていた者は、それを行った者に固執する。・・・クク、日向結人。君は立派な餌に育ったな」
 神無理事長は、結人に気付かれることなく、その場を後にした。
「私が動き始めるには、いい頃合いかもしれないな」
 そう・・・呟きながら。



「なんや、結人、寝たんかいな」
 泉介が、結人を見下ろしながら、そう言った。
 いつまでも寮に戻ってこない結人を心配して、探してみれば、結人は、生徒会室の机に顔をつけて、眠っていた。
 ビデオを見ながら、眠ってしまったようだ。
 泉介は起こそうとして、やめた。
 いつも笑顔なかわいい友達が、無防備に寝息を立てているから。
「結人の寝顔って、超癒し系だよな。かわいすぎる。めっちゃ、キスして、なでまわしたいなぁ」
 要が自分の上着を、結人の小さな体にかけてあげながら、微笑んだ。
 言葉とは裏腹に、とても優しい笑顔で。
 命をかけてもいいと思わせてくれた、愛しい人だから。
「結人は起きてる時も、俺を癒してる」
 密は無表情に、けれど、ジッと結人を見つめながら、呟いた。
 結人に、自分の体の秘密を知られて以来、体が変化するたびに、血と痛みが治まるまで、一生懸命に細い腕で抱きしめてくれる結人を、思い出しながら。
「お前たちは、少しは、黙ることを覚えたらどうだ」
 誠志は、ポケットのタバコに手を伸ばしかけて、やめた。
 無邪気に眠る結人を見て、なんとなく。
 そして、気付かれないように、自嘲気味に薄く笑った。
 長年愛用してきたタバコの種類を変えるきっかけを作った結人と、その出来事を思い出しながら。

 そして、誰からともなく、それぞれのイスに座って、それぞれの距離感から、結人の寝顔を見つめた。

 結人の安らかな時を、壊さないようにと・・・。



※今回の小説は、みんなの休日ですが、
 神無理事長が悪だくみしてるシーンが出てきますね(*´O`)
 時期的に、本編の16話のあとという感じです。
 16.5話って感じです♪
posted by ちぃ at 16:45| Comment(0) | TrackBack(0) | 【小説】みんなの休日 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

みんなの休日 9

 教会の後も、みんなで、色んなところを見たり、ビデオで撮ったりしてまわった。
 途中で、みんなでアイスを買って、食べながら歩いた。
 アイスの種類がたくさんありすぎて、うれしいけど、どれを選んでいいか分からなくて、悩みに悩んだ末、最初に目に入ったバニラアイスを、結人は選んだ。
 その結人のバニラアイスに、泉介が噛り付いてきて、「間接キスや」と、笑われた。
 物にこだわりのない密は、結人のまねをして、同じバニラアイスを買って、無表情で、もぐもぐしていた。
 要は、結人が口のまわりいっぱいにつけたアイスを、親指の腹でぬぐうと、ペロッと舐めて、いたずらっぽく笑っていた。
 誠志は、アイスではなく、コーヒーを飲んでいた。
 誠志は甘いものが苦手なのだが、その割に、生クリームプレイをされたことあったなぁと、変なことを思い出したりもした。
 そんな感じで、遊びまくって、歩き疲れて、今は学校に戻ってきていた。
 ビデオは、時間ができたら要が編集してあげると言っていたが、結人は待ちきれず、誰もいない生徒会室で、一人でビデオを見ていた。
 機械の使い方を習ったが、分からなくて、とりあえず再生ボタンだけ押してもらって、流れていく、まだ乱雑な状態の画像を見つめた。
 編集してもらったら、もっときれいな物を見れるだろうが、そんなこと気にならないほど、結人がほしかったきらきらに、あふれていた。
「あ、このへん、密が撮ったんだ」
 密が撮ったものは、結人ばかりだった。
 近距離で、撮られている。
 結人のドアップが、次々に出てくる。
 恥ずかしいなと思いながら見ていると、密は、結人の頭をよく撮っているのに、気付いた。
 結人のつむじが、よく映っている。
 身長の高い密が、身長の低い結人を撮ったからだろう。
「そっか。密には、いつも、おれが、こんなふうに見えてるんだなぁ。・・・つむじ・・・」
 結人が、頭のうずまきを、手で押さえていると、結人が撮った密の姿が、画面に広がった。
 密が珍しく笑ったので、急いで撮ったのだが、泉介には、密は笑ってないと言われた。
「最初は、おれも、密の表情、分からなかったもんなぁ」
 密の、無表情の中の表情。
 最初出会った頃には、分からなかった。
 でも、今は分かるようになった。
 出会ってから、ずっと一緒にいて、たくさんたくさん、色んなことを話したから。
「おれの、初めての友達。おれを・・・好きだっていってくれた人・・・」
 密の体の秘密を知った夜、あの日に告白されて、でも、たぶん好きだと言われて、けど、いつの間にか、たぶんを付けなくなっていた。
「・・・おれが好き・・・かぁ・・・」
 こんな自分のどこをと思うけど、聞いたらまた、恥ずかしいことを言われそうで、なんとなく聞けてない。
 また、つむじをなでなでしていたら、今度は画面に、要の姿が映った。
「あ、要さんだ」
 要は、カメラを向けられたのに気付くと、全力の笑顔で、ピースサインをしてくれていた。
 いつも結人にあわせて、雰囲気を明るくしてくれて、気を使ってくれているのに、それを気付かせないようにしてくれる、やさしい人。
「あれ?おれ、また、要さんに、頭なでられてる」
 ジッと見ていたら、カメラに収められた要の行動の4分の3は、結人の頭をなでていた。
 いつの間にか、要に頭を撫でてもらうのが、普通になっていた。
 普通になりすぎてて、こんなになでられていることに、気付かなくなっていた。
「要さんに、頭なでられると、すごく・・・安心する・・・」
 要は、たくさん大変なことを抱えているのに、いやな顔せず、大事に大事にしてくれる人。
 自分自身の痛みなど顧みず、結人を優先して、考えてくれる人。
「おれがこの学校にきて、いちばん最初に・・・おれのこと、好きっていってくれた人」
 要には、たくさん、何度も、好きといわれた。
 最初から変わらず、今でも、好きといってくれる。
「おれのこと・・・おれが汚いこと知ってるのに、変わらないでいてくれる人・・・」
 要が撮った映像は、結人がみんなと笑っているところや、結人が目を輝かせて色んな物を見ているところだった。
 要の優しさは知っているから、それを撮った時、きっと優しい顔してくれてたんだろうなと、結人は思った。
「おれの・・・やさしいお兄さんで、頼れるお父さん。おれが笑っていると、よろこんでくれる人・・・」
 要のことをどう思っているか、本人にいったことはない。
好きっていってくれてるのに、家族みたいに思ってたら、怒られるかな。
「あ、今度は、泉介だ」
 泉介の姿が、映し出された。
 泉介は、今日、みんなでお茶したオープンカフェで、結人が飲んでいたメロンソーダのアイスを、横から盗み食いしていた。
「泉介が『あそこに、ねこがいる』って言った時だ。きづかなかったなぁ。もお!明日会ったら、怒るからなぁ」
 ぷーっと頬をふくらませて見ていたら、アイスを盗った泉介が、自分のさくらんぼを、結人のメロンソーダの中に、こっそりいれている所が映った。
 お詫びのつもりのようだ。
 なんだか、怒りにくくなってしまった。
「んー。まあ、いっか」
 泉介とは、こんな感じのケンカを、よくする。
 でも、すぐに、じゃれあいのような感じになって、本気でケンカしたことはない。
 なんだか、色んなことが、許せるのだ。
 泉介は考えてないようで、やっぱり考えてないけど、でも、いっしょにいると、すごく楽だった。
「おれの初めての、親友・・・」
 たくさんいっしょに笑って、遊んで、ケンカして。
 楽しい時間をくれる人。
 失いたくないって、思える人。
 泉介が撮った映像は、なんだもちゃんをはじめとして、結人が気に入った物が、たくさん収められていた。
 そして、それを見てよろこぶ、結人の姿が。
 すごくなじみがある風景のように思えるのは、きっと、結人と視点が近いからだろう。
 結人より少し身長が高い分、目線は高いが、結人と同じような感覚で、色んなものを見てくれる。
 いっしょに、笑いあってくれる。
 とても、自然に。
「泉介との毎日は、すごく普通な感じ・・・。でも、それがうれしいな・・・」
 結人が一番、自然体でいられる人。
 同じように、差別を受けることがあるのに、それに負けないで、笑ってる人。
 画面は、泉介から切り替わった。
「あれ?さっきから、ときどき、誰が撮ったかわからないのがあるけど、もしかして、香守先輩?」
 誰が撮ってるのかな?と思っていたが、今、誠志以外のみんなで話している姿が映っていたので、誠志が撮っていたのだろう。
「知らなかった。いっぱい、撮ってくれてたんだ」
 今日、ずっと不機嫌そうで、帰りたそうにしていた誠志が、意外なほど映像を残してくれていたことに驚いて、そして、うれしくなった。
 誠志は、こんな感じの人だ。
 いつの間にか、助けられている。
 怖くて寂しくて、支えがほしくなって、近くにいる人のシャツをつかんだら、それが誠志だったことは多い。
 いつの間にか、誰かにいてほしい場所に、いてくれている。
「最初は・・・怖い人だと思ってたけど・・・」
 でも、今は、それだけじゃないと、感じている。
 二人だけでいる時、ふいに、優しくしてくれることがある。
 この間、生徒会室で要の帰りを待っていた時、嵐がきて、雷と風がひどくて、停電までして、怖くなって部屋の隅で震えていたら、何も言わずに抱きしめてくれた。
 嵐が過ぎるまで、ずっと。
 あの時、電気がつかなくて、暗くて、誠志の表情は見えなかったけど、すごく安心した。
 誠志の胸板の筋肉の向こうから、トクントクンと、鼓動が聞こえてきた。
「いっぱいいじわるされるし、おれのこと、どう思っているかわからないけど・・・」
 誠志が撮った映像には、一人で立っていると、すぐに誰かが話しかけてくれる結人の姿が映っていた。
 と思っていたら、カメラに、要がひょこっと映りこんできた。
「ゆーいと。誠志はな、こんな風に、結人が一人になってないか、ちゃんと見ててくれてるんだぜ」
 そう言った瞬間、映像が激しく乱れた。
 すごい激突音もした。
 誠志がカメラで、要を殴ったようだ。
 びっくりしたが、カメラは壊れてなかったので、いつもの二人のように、本気で殴りあったりはしていないのだろう。
「そっか・・・。香守先輩って、そんな風に、おれを・・・見ててくれてたんだ・・・」
 うれしかった。
「・・・香守先輩は、要さんの一番の理解者。・・・でも、おれのことも、すごくわかってくれる人・・・」
 結人は、それからも、ジッと、映像を見続けた。
 今日は本当に、たくさんの物を見てきた。
 たくさんのことを、撮った。
 みんなと一緒に。
 撮りたかったきらきらが、いっぱいだ。
「・・・あ・・・」
 結人が画面を見て、思わず声を出した。
 映像が突然、終わったから。
 今日、連続使用しすぎて、途中で充電が切れたのだ。
 誠志の車に急いで戻って、充電しなおしたけど、帰るまでには間に合わなかった。
 画面は真っ暗になったけど、結人はそこから、目を離さなかった。
 撮れなかったけど、何があったかは、全部覚えている。
 頭悪いけど、がんばって覚えた。
 みんなが、いっしょにいてくれた時間を。
 そして、映像に撮ったからこそ分かった、みんなが結人を、どう見てくれているか。
「みんな、おれを撮ってくれてたんだ。・・・おれはね」
 結人は、一度、言葉を切ってから、
「おれは・・・みんなを、撮ったよ」
 何も映っていない画面に、結人は笑いかけた。
「・・・この学校にきてから、たくさんのことがあった・・・」
 たくさん・・・泣いた。
 悲しいことが、あまりにもあったから・・・。
「・・・でもね・・・」

 おれなんかと、話してくれた。
 おれみたいなのに、笑ってくれた。

 助けてくれた。
 好きっていってくれた。

 おれに、たくさんたくさん、やさしくしてくれた。

 だから、

「ありがとうです・・・」


 いつか、幸せな時間は壊れるって、おれは知ってるけど、

 でも・・・、

 大事な思い出、いっぱい撮ったから、

 おれは、ここに、やり直しにきたんだから、

 おれ、

 がんばるね・・・。


 まけそうになったら、また、このきらきらした映像を、見にくるから。
posted by ちぃ at 16:41| Comment(0) | TrackBack(0) | 【小説】みんなの休日 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

みんなの休日 8

 お腹がいっぱいになった結人たちは、また、街をぶらぶらしていたが、ふいにきれいな鐘の音が聞こえてきて、誘われるように、そちらに歩いて行った。
 行き着いた先で、結人の瞳は、きらきらに輝いた。
「わぁ!泉介、密、要さん、香守先輩、花嫁さんがいます!」
 やわらかな鐘の音が響いてくる教会から、純白のドレスに身を包んだ幸せそうな花嫁と、その手を支え歩く花婿が、二人そろって出てくるところだった。
 それを、大勢の友人・親戚たちが、祝福していた。
 とても、幸せそうな光景。
「おれ、はじめて見ました。なんか、どきどきします」
 胸を抑えて、誠志のシャツを無意識に引っ張っていた結人の言葉に、密が無表情のまま、ムッとした。
「結人、ドキドキするのか?あの女がいいのか?」
 そんな密の頭を、てしっと、要がはたいた。
「こーら、密。結人のきらきらの、ジャマすんなよな。お、結人、ブーケトスするみたいだぜ」
「要さん、ぶーけ、とす?って、なんですか?」
「花嫁さんが、結婚式で使った花束を、参列した結婚してない女性に投げるんだよ。で、それを取れた人は、次に幸せな結婚ができるって言われてる、って感じかな」
「へぇー。そうなんですね。すごいなぁ」
 誰かを幸せにできる儀式があるなんて、結人には驚きだったし、うらやましかった。
 不幸ばかり人にもたらす自分と違うんだなって、ちょっと、さみしくなった。
「・・・おれのお父さんとお母さんも、こんな風に、結婚したのかな・・・」
 でも、自分が生まれたから、幸せがなくなった。
 辛い目に合わせた。
 それだけじゃなく、死なせてしまった。
(大好きだったのに・・・)
 結人はそう思って、少し、うつむいてしまった。
 それは、みんなに伝染してしまう、暗い感情。
 みんなに気付かれないように気を付けていたが、そんな結人を見ていた要が、明るく結人に言った。
「結人も参加してみない?」
「え?でも、おれ、男だし」
「ちょっと待ってて。聞いてくるから」
 結人の頭を優しく、くしゃっとなでてから、要は参列者の中に走っていった。
 そして、戻ってきたときは、指でオーケーサインを作っていた。
「余興を兼ねて、男も参加でやるらしいから、いいってさ。人数多いほうがいいから、オレたちもぜひにって」
「で、でも・・・」
「ゆーいと。みんなで、花嫁さんを祝ってやろうな?」
「え、あ・・・はい!」
 誰かを幸せにできる。
 結人に笑顔が戻ったのを見て、要も笑った。
「おっし、がんばろうな、結人」
「はい!って、わわ!」
 結人の体が、急に宙に持ち上げられ、気付いたら、密に肩車されていた。
「高いほうがとれる」
「でも、ちょっと・・・は、はずかしいよ、密」
 この年で、肩車されるのも恥ずかしかったが、長身の密が肩車すると、結構高くて、参列者の中で飛びぬけてしまって、かなり目立っている。
「気にするな」
 密は、全く気にならないようだった。
 密には、照れることを覚えてほしいなと思う、結人だった。
 ついでにいえば、密の兄代わりの要にも。
 二人とも、恥ずかしいことを、ためらいもなく言ってくる。
「結人、ブーケトス、始まるみたいだぜ」
 要がそう言った瞬間、花嫁が投げたブーケは、優雅に・・・ではなく、剛速球で、直線状に飛んでいった。
「飛ばしすぎだろ!花嫁!!」
 参列者が総つっこみを入れる中、密に肩車された結人や、結人の為に別ポジションで構えていた要と泉介を一瞬で通り越し、遠くで無関心にタバコを吸っていた誠志の元へ、飛んで行った。
「まったく。俺を、巻き込むな・・・」
 不機嫌そうに煙を吐き出しながら、誠志は、一直線で飛んできた高速ブーケを見ることなく、軽くこぶしで、ぽすっと叩いた。
 軌道を変えたブーケは、弧を描き、ふわりと、結人の手の中に収まった。
「わあ!香守先輩、ありがとうございます!」
 密に肩から下してもらった結人は、手の中のブーケと誠志を交互に見ながら、幸せそうに、にこっと笑った。
 そんな結人の頭を、要が撫でてやった。
「結人、よかったな!(誠志のヤツ・・・いっつもおいしいとこだけ持っていきやがって・・・)」
「はい!おれ、今、すっごく楽しいです!」
 結婚とかは考えたことはないけど、人を幸せにできるものが自分の手の中にあるのが、うれしかった。
 この花束は、あとで、取るのを手伝ってくれたみんなと分けようと、結人がわくわくしていると、今度はブートニアトスを行うと、司会の男が言った。
 その言葉に、結人を好きな男たちの瞳が、本気モードになった。
 ブートニアトスとは、新郎が胸につけている花を、未婚の男性に投げる儀式だ。
 つまり、花嫁のブーケを持つ結人の、お相手とも言える。
 ?と、首をかしげている結人をよそに、ブートニアトスは始まった。
 新郎が投げた胸飾りは、優雅に弧を描く・・・ことなく、剛速球で飛んで行った。
「新郎!お前もかよ!!」
 再び、参列者からの総つっこみが起こる中、運動神経のいい泉介が、宙にある胸飾りに狙いを定めて、重心を落とした。
「よっしゃー。オレが、いただきやでー」
 そう思って飛ぼうとした瞬間、泉介の背中を踏み台にしてジャンプした要が、悠々と胸飾りをとった。
 空中でうまくバランスをとって着地すると、要は、勝利の胸飾りに、チュッと口を付けて見せた。
「悪いな、泉介。結人が、かかってるからな。オレ、本気出しちゃうぜ」
「会長はん、ズルいでー。ハンデくれやー」
「結人のことで、ハンデなんかやらねぇよ。悔しかったら、泉介ももっと、鍛えろよ」
 いくら運動神経がよくても、泉介と要では、鍛え方が違う。
まともに戦うのが、ムリな話なのだ。
 息一つ乱さす、余裕で笑う要を前に、泉介が、くーっと地団駄を踏みだした。
 そんな中、花嫁が、結人に話しかけてきた。
「ありがとう。キミたちのおかげで、すごく盛り上がったわ。みんな楽しそう」
 気付けば、参列者たちが、飛び入りの結人たちに、拍手を送っていた。
 結人は恥ずかしくて、かぁっと火照った顔をブーケに隠しながら、それでも花嫁に「おめでとうございます」と告げた。
「おれが、しあわせのお手伝いできるなんて、すごく、うれしいです。あの、ありがとうございます」
 結人は、深々と、心からのおじぎをした。
 そんな礼儀正しい結人を、花嫁は、ほほえましく思った。
とても温かい気持ちを、もらったと。
 人生最良の日に、とてもいい子たちに巡り合えたと。
「たくさんのステキな彼氏さんたちに、囲まれているのね。ふふ、ブーケの魔法で、きっと、かわいいお嫁さんになれるわ。でも、ステキすぎて、一人に絞るのは大変そうね。お相手はもう、決まっているのかしら?」
 相手と聞かれて答えそうになったが、結人はそれよりも、もっともっと、ずっとずっと、気になったことを、口にした。
「およめさん?えっと、誰がですか?」
「もちろん、キミよ。純白のウエディングドレス、絶対似合うわ。あ、でも、ミニ丈とかも、ステキかも。私もミニ丈着たかったけど、教会だから着れなくて」
 楽しそうに、かわいい結人で想像する花嫁を前に、結人が固まった。
 そんな結人に気付かず、花嫁は、とどめの言葉を口にした。
「でも、女の子なんだから、ギャップがあってかわいいけど、『おれ』なんて言ってると、彼氏さんたちが、ショックを受けちゃうぞ」
 お嫁さん・・・。
 ウエディングドレス・・・。
 女の子・・・。
 その言葉が意味することが分かって、結人はガンとショックを受け、瞳をうるうるさせだした。
「おれ・・・また、まちがわれてる・・・」
「え?なにがかしら?」
「おれ・・・・・・・男です・・・」
「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・え?」
 今度は、花嫁が固まる番だった。
「え?だって、キミが男の子だと、あれ?あっちの子たちも、男の子で?えっと?」
 女の子だと思っていた結人と、どう見ても男の子な密たちを交互に見て、花嫁は混乱しだした。
 会場には、不思議な空気が流れだした。
 それを察した要が、結人の手を優しく握って、走り出した。
 結人が傷つく言葉が出る前に、と。
「行こう、結人。それじゃ、お幸せにー」
 手を引かれながら、結人たちは、教会をあとにした。
posted by ちぃ at 16:38| Comment(0) | TrackBack(0) | 【小説】みんなの休日 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

みんなの休日 7

 ハンバーガーショップの席に、大量のハンバーガーやらポテトやらジュースを山盛りにしている状態は、当然、大いに目立つわけで。
 けれど、結人たちが注目されている理由は、他にもあるようだ。
 少し離れたところに座っている女子高生のグループだろうか、その子たちが、ノートで顔を隠しながら、チラチラと彼らを盗み見て、きゃあきゃあと囁き合っている。
 ちょっと、顔を赤くして。
「なんや?」
「泉介ー、今日は結人が主役だから、ムシしとけよー」
「へ?会長はん、なんなんや?」
「さあね。あ、結人、イチゴシェイクあるぜ。結人、イチゴ好きだもんな?」
「あ、はい!」
 結人は、要から渡されたイチゴシェイクのストローに、ふっくらとした、かわいい唇をつけた。
 が、シェイクが思いのほか固くて、結人は真っ赤な顔をして、小動物のように、一生懸命がんばってがんばって、吸い始めた。
 それは、あまりにかわいすぎて、全員の表情をデレさせるのに、十分な攻撃力を持っていたが、中でも、密のハートを、激しく打ち抜いたようだ。
「ひ、密?な、なんか、また、顔、近いよ?」
 密は、距離感を、気にしない。
 気付くと、よく、近くにいる。
 至近距離で密に見つめられ、結人は密から視線を外して、少しでも離れようと、首をすぼめた。
 が、密は全く、気にしなかった。
「なんか、結人が、かわいく見える。結人はシェイクを飲むと、かわいくなるのか?」
「ち、ちがうと思うけど」
「シェイクを飲む結人を、もっと見てみたい。けど、学校にはない。寮にもない。困った」
「ひそか?話、聞いてる?」
「困った」
 むむむと、密が考え込んだ時、囁き合っていた女子高生たちが、意を決したように立ち上がった。
 それを目の端でとらえていた要が、テーブルの下で、誠志の脚を蹴った。
「誠志、お前行けよ」
「自分で行け。要がまいた種だろうが」
 長い脚で、誠志が蹴り返してきた。
 ので、さらに蹴り返した。
「誠志じゃねぇの、大女優の息子君?それに、結人に浮気してるように見られたらヤダし」
「バカか」
 とは言っても、押し付けあっている間に、女子高生との距離は近づくわけで。
 ほほえましいじゃれあいを見せてくれる結人たち1年トリオを見て、その空間を壊したくないし、「しょうがない・・・」と呟きながら、要は立ち上がって、女子高生たちに近づいた。
「ほい、そこで、ストップ。何か用?」
「あ、あの、私たち、この近くの学校なんですけど!」
「うん、それで?」
「そっち、男子5人でしょう?」
「私たちも、5人だから」
「そうそう。一緒にお茶でも、どうかなぁって」
 要を取り囲む女子たちは、きゃあきゃあしていた。
 そんな彼女たちに、要はきれいな笑顔を見せ、でも、とんでもないことを、あっさり言った。
 一撃必殺撃退の呪文を。
「ごめんね。オレたち、かわいい男の子にしか、興味ないから」
「・・・・・・・・へ?」
「で、今、そのかわいい男の子とデート中だから、ジャマしないでね」
 それじゃね、と手を振ると、女子たちは席に逃げ帰り、「きゃー」っと驚きと楽しさを混ぜた声を上げだした。
 話題にされた『かわいい男の子』結人は、そんなことが起きてることに、全く気付かず、密に近距離で見守られながら、一生懸命、固いシェイクを飲んでいた。
 泉介が、人生初の逆ナン経験をつぶされたことに気付いたのは、店を出てからだった。
posted by ちぃ at 16:37| Comment(0) | TrackBack(0) | 【小説】みんなの休日 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

みんなの休日 6

 はぁはぁはぁと、結人の息があがったころ、要が「もういいよ」と言って、走るのをやめてくれた。
 人質ならぬ物質(ものじち)をとられた誠志は、とりあえず、帰らずにいてくれるようだ。
 気分屋で自己中心的な割に、世話焼きな誠志のさじ加減は、長い付き合いの要にしか、わからない。
 結人だと、すぐ誠志の逆鱗に触れてしまって、気付いたら・・・いろいろされてしまっている。
 今朝も、うかれて、早朝に、まだ寝ている誠志の部屋を襲撃してしまったから、低血圧で不機嫌だった誠志に、いろいろされかけた。
「結人、ごめんね。大丈夫?」
「か・・・なめ・・・さ・・ん・・・・・・だ・・・だいじょ・・・う・・・ぶ・・・です・・・」
 結人は走りつかれて、座り込んで、ゼイゼイ言っていた。
 その背を、要がゆっくり、なでてくれていた。
 でも、みんな同じだけ走ったのに、みんなケロッとしていて、一人だけ呼吸が荒くなっていて、結人は自分が、情けなくもあった。
「結人、どないしたん?」
 一番身長が近い泉介まで、平気な顔だ。
 くやしい・・・。
 体力がほしい・・・。
 自分だって、男だ・・・。
「会長はん、オレ、腹減ったでー」
「そうだな。結人に水飲ませたいし、どっか入るか。結人、立てるかな?」
「・・・はいぃ・・・」
 心の中の男らしい決意とは裏腹の、弱弱しい情けない声が出てしまう。
 要に支えてもらいながら、結人がよろよろと歩いていたら、カメラをまわしていた密が、ジッと何かを凝視しながら、声をかけてきた。
「結人、あれ・・・」
「あー、なんだもちゃんだ」
 そこには、先ほど別れたはずの、大仏顔のキモイなんだもちゃん(着ぐるみ)がいた。
 今度は、割引券を配っている。
 さすがの要も、驚きの声がでてしまう。
「こいつ、どこにでもいるのな。生息率高ぇよ」
「会長はん、知らへんの?なんだもちゃんは、そこのなんでもバーガーの、マスコットやで」
「ドラッグストアのキャラじゃなかったのかよ?」
「なんでもバーガーは、なんでも屋の姉妹店やで。なんでも屋は、『なんでもそろう、なんでもやろう』が、キャッチフレーズやで」
「なんだ、それ。まあ、いいけど。結人、ここにする?」
 なんだもちゃんのシールが、窓一面に貼られた、不気味なハンバーガーショップを指さす要に、結人は元気に「はい!」と答えた。
 が・・・、
「ちょっと割高やけど、めっちゃおいしいんやでー」
 泉介の言葉に、結人は固まった。
 高い・・・その言葉に・・・。
「会長はん!おごってぇなぁ」
「泉介、お前は、いっつもオレにたかるよな。いいけどさ。あれ?結人、どうした?」
 泉介に引っ付かれている要が、結人の不審さに気付いた。
 結人は、かわいい猫のがま口財布を開けて、逆さまに振っていた。
 中から、ほこりだけが出てくる。
「あ、あの、かなめさん、おれ・・・水だけで・・・いいです」
 しゅんとうつむきながら、「おなかいっぱいだから・・・」とごまかすように付け足したら、誠志に呆れたように、頭をこつかれた。
「日向、お前は、そういうことを言ったら、要が暴走することを、まだ理解してないのか?」
「え?」
「結人、おいで」
「え?え?要さん?」
 要は結人の腕をひいて、ズンズン歩き出した。
 そして、ハンバーガーショップの女性店員の笑顔の前まで行くと、
「お姉さん、とりあえず、全商品持ってきて」
「えええー!か、要さん?!」
「会長はん!金の使い方が、あいかわらず、男前やー。ホレるでー」
「なんだよ、泉介。その言いかたじゃ、金の使い方だけ男前みたいじゃんか?オレはいつでも、いい男だぜ♪な?結人」
「あ、あの、えっと」
「ゆーいと、オレのこと、かっこいいって言ってくれないの?」
「そ、そうじゃなくて、おれ、いつも買ってもらってるから」
「いいのに、気にしなくて。なんなら、お店、貸し切っちゃう?」
 要の暴走をどうしていいか分からず、遠慮してオロオロする結人を撮影していた密が、ボソッとつぶやいた。
「要は、すぐ、貸し切りとかする。金の使い方が荒い。いや、粗いなのか。たまに、考えたほうがいい」
「え?思わぬところから、つっこみきた。どうしたんだ、密?まっとうなこと言って。成長したのか?お兄ちゃんは、うれしいぜ」
 レジカウンターの前で、いつまでもワイワイ騒いでいるみんなを放置して、誠志は一人、長い脚を組んで、席でコーヒーを飲んでいた。
 関わらないようにしていたのだが、その誠志のいる机には、要の大量発注品が、どんどん積まれていくわけで。
 誠志の途中リタイヤは、認められないようだ。
posted by ちぃ at 16:35| Comment(0) | TrackBack(0) | 【小説】みんなの休日 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

みんなの休日 5

 なんだもちゃんと楽しそうに遊ぶ結人たちを遠目に見ながら、誠志は、疲れたようにため息を吐いた。
 その横に立っていた要は、「要さーん」と向こうから両手を振っている結人に、笑って手を振り返しながら、誠志を見ずに、けれど、誠志にしっかり釘を刺した。
わざと、低音を出して。
「・・・帰んなよ」
「このテンションのままでいるつもりなら、帰らせてもらう」
「結人は、全員一緒のところを、撮りたいんだ。帰る気なら、関節技きめてでも、止めるからな・・・」
「お前は、どこまでも、日向に甘いな」
「そりゃあ、結人のこと、愛しまくっちゃってるからな。・・・で、お前はどうなんだよ?」
「何がだ?」
「お前もさ、そうなんだろ?」
「なんの話だ」
「なんで隠すかねぇ。・・・結人にいわねぇのかよ?結人、なんだかんだ言って、お前になついてるし、喜ぶと思うぜ?」
「お前の話は、理解に苦しむな」
「ふーん。まぁ、お前も、抱えてるもん多いからさ、あんま言わないけど、早くしないと、オレが誰も、結人に手を出せなくしちゃうぜ?」
 要が、問いかけるように視線だけを向けると、誠志は何も言わずに、タバコを咥えようとしているところだった。
 誠志に、答える気はないらしい。
「まっ、いいけどね。とりあえず、今日は結人に、付き合えよ?結人がさ、笑ってるだろ?結人がああいう笑顔・・・誰かに気を使ってとか嘘ついてとかじゃない、楽しそうな笑顔を出せる、珍しい機会なんだからさ」
「まあな・・・」
「というわけで♪」
 要は誠志を見て、ニッと笑うと、タバコに火をつけようとしていた誠志のライターを、素早く奪った。
 妹からもらったという、誠志愛用のプレミアム品を。
 誠志が、不機嫌そうに何かを言う前に、要は結人たちのほうに向きなおり、その勢いのまま、泉介にライターを放り投げた。
「泉介、誠志の人質ならぬ、物質(ものじち)とったぜ!走れ、俊足ー!」
 そういうと、不思議そうにしている結人の腕をとって、要も走り出した。
「ほら、結人も走るぜ」
「え?え?ど、どうしてですか?」
「いろいろ言って、誠志を怒らせてみたから」
 突然のことに意味が分からず、後ろを振り返ると、誠志が苛立ちオーラを出しまくっていたので、怖くて、結人はとりあえず、いっしょに逃げることにした。
 それに、みんなで走るのは、なんだか、楽しいような気がした。
 やったことないけど・・・子どもの頃、やってみたかった、おいかけっこみたいで、どきどきした。
 でも、気になったので、これだけは、聞いてみた。
「要さん、香守先輩に、なにをいったんですか?」
「んー、内緒♪こういうのは、自分で言わないとね」
「???」
「・・・まぁ、オレは・・・何回も言ってるのに、いまだに、報われてないけどね・・・」
「??????」
 結人の周りに、ぽんぽんぽんと、?マークがいっぱい浮かんだ。
posted by ちぃ at 16:34| Comment(0) | TrackBack(0) | 【小説】みんなの休日 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

みんなの休日 4

「あの・・・こんにちは」
 結人は、目の前にぬぉっと現れた物体に、泉介の後ろに隠れながら、おずおずと挨拶をした。
 物体は、ピっと手をあげて、無言の挨拶を返してきた。
「せ、せんすけぇ。これ、なに?」
「結人、何、びびっとんねん。ゆるキャラやで。結人、好きそうやないか」
「ゆ、ゆるキャラ?」
 ケラケラと結人を笑う泉介が指さす先には、大仏系ののっぺり顔をした着ぐるみがいた。
 ぶらぶらと歩いていた街の通りで出会ったのだが、なんだか、キモかわいい・・・いや、キモい系だった。
 それが、チラシを配ってきたのだ。
 無言で。
 圧倒的な圧迫感を持って、差し出されるチラシ。
 こわい・・・。
 ゆるキャラが何かも、結人には、わからなかった。
 助けを求めるように、結人は後ろにいる要を、見つめた。
 困った時の、歩く辞書な要お兄ちゃんに。
「か、かなめさん、知ってますか?」
「うーん、オレも、知らないな。泉介、なんだよ、そのキモいの。子供が、泣いて逃げてんじゃんか」
「会長はんも、知らへんのか?ドラッグストアなんでも屋が誇る、ゆるキャラ!ゆるキャラランキング堂々の2795位の『なんだもちゃん』やで」
「2795位とか、そんなマイナーラインのお友達、知らねぇし」
 世間知らずの結人や密、お坊ちゃま育ちの要や誠志たちが知らない、普通の学生の常識的なことを知っているのは、助かっているが、泉介は妙なことにも詳しい。
 誠志が、自分のスマートフォンで検索したところ、なんだもちゃんは、堂々で毎年のランキング最下位人気だった。
 ゆるキャラ戦国時代の今、どうやって、生存を許されているのだろうか。
 でも、その情報が、結人の心を動かした。
 結人は、少しうつむいて考え込んでいたが、やがて、ふわりと笑って、なんだもちゃんを見つめた。
「最下位なんだね・・・。おれと同じだ。おれもがんばるから、いっしょにがんばろうね」
「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・」
 なんだもちゃんを、きゅっとつかんだ結人を、なんだもちゃんが、無言のままギュウっと抱きしめた。
 かと思ったら、密に、蹴り飛ばされた。
 無言で宙を舞う、大仏顔のなんだもちゃん。
 悲鳴をあげなかったのは、ゆるキャラの仕事に対するプライドのなせるわざか・・・。
「え?え?密?!なんで、なんだもちゃんをけるの?!」
「ソイツが、結人を抱きしめた。むかつく」
「密!なんだもちゃんは、わるくないよ!」
「結人、なんでソイツを庇うんだ。好きなのか?」
「いきなり蹴る密よりいいよぉだ」
 ぷいっとむくれた結人を前に、密が無表情のまま、ショックで固まった。
 そんな密の頭を、要がこつんと叩いた。
「密、着ぐるみ相手に、妙な嫉妬すんなよな」
「だって・・・中身、男・・・」
「まぁ、そうだろうけど。結人は、なんだもちゃんが気に入ったみたいだな」
「はい!気にいりました」
「ん。じゃあ、ビデオ貸して。誠志ー、撮れ」
 結人からビデオカメラを借りると、遠くで傍観してタバコを吸っていた誠志に、要は放り投げた。
 そして、結人となんだもちゃんの手を握って、バンザイするように、両手を挙げた。
「結人、とびっきりの笑顔な。あと、密と泉介も、なんかポーズとれ」
「かなめさん?」
「結人、カメラ向いて。結人のきらきら、撮らないとな」
 結人はきょとんとした瞳を要に向けていたが、笑いかけてくれる要を見ていて、結人にあわせるように妙な動きで変なポーズを決めてくれる密と泉介を見て、結人はおかしくて、でも、楽しくて笑った。
 結人の記念すべき思い出の記録には、なんだもちゃんとみんなの笑顔が、映った。
posted by ちぃ at 16:33| Comment(0) | TrackBack(0) | 【小説】みんなの休日 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

みんなの休日 3

「結人、ビデオの充電はしてきたかいなー?」
「うん、泉介!ばっちりだよ」
 結人は、ビデオカメラを楽しそうに、ひょこっと持ち上げた。
 途中で充電がきれたら、たいへんだ。
 だから、今日はまだ、一度も使っていない。
 ねこさん家族の姿は、帰ってから撮るつもりだ。
「なら、ガンガン撮るでー」
「おー」
 仲良し泉介&結人コンビが騒いでいるのは、結人たちの学校がある人工島ではなく、人工島から離れたところにある、緑の多い公園だった。
 誠志の車に乗せてもらい、連れてきてもらった。
 密もいる。
 でも、要はいなかった。
 というか、昨日、生徒会室で約束した後から、ずっといない。
 この公園を待ち合わせ場所に指定したのは、その要だ。
 結人が、わくわくしすぎて眠れず、寝ている誠志の部屋を朝早くに襲撃して、早くきすぎてしまったため、約束の時間にはまだなっていなかったが、
「要さん、まだかなぁ」
 気付けば、公園の入り口を、何度も見てしまう。
「この近くに、要名義の九条家の会社がある。そこから来るつもりなんだろうな」
「香守先輩、そうなんですか?」
 誠志が難しそうな話を始めるのかなと、結人が誠志のほうを向いた時、結人の背後を、一台のバイクが猛スピードで走り抜けた。
「え?」
 バイクは、ブレーキをかけながら、更にスピードを殺そうと、車体を横むかせていたが、スリップしたのか、公園の木に派手に激突して、止まった。
 あのバイクは、確か・・・、
「要さん?!」
「いってて・・・。お、結人。待たせちゃったかな?ごめんね」
 ヘルメットをとりながら、要が何事もないかのように、笑顔で手を振っていた。
 その横を、バイクから取れたタイヤが、転がっていく。
 結人が知っている限り、3回目の廃車状態だ。
 要と知り合って、約2か月。
 要のバイク破壊率は、高い。
「要さん!大丈夫ですか?!」
「ん?ああ、これくらい、へーきへーき」
 結人が、大慌てで、心配して駆け寄ったら、頭をなでられた。
 ついでに、寝癖もなおされた。
 その後ろで、誠志が呆れたように、ため息を吐いていた。
「まったく。要、いい加減にしろ。死ぬ気か?それとも、捕まる気か?」
「別に、これくらい、どーってことないし。それに、捕まったら・・・・・・オレの権力でもみ消すから安心しろ」
 不敵な笑みを浮かべる要は、背負っていたリュックから、普段着とスニーカーを取り出すと、今着ているスーツと革靴とメガネを脱ぎ捨て、着替えだした。
 公園で堂々と。
 要は、仕事着だったようだ。
 結人は何となく、その高そうな布地を、手にしてみた。
 さっきの衝撃で破れたそれも、バイクと一緒に、捨てる気のようだ。
「えっと・・・あ・・・まに?」
 たどたどしくスーツのタグを読んでみたら、誠志につつかれた。
「日向、Rを抜かして読むな。アルマーニだ」
「あるまーに?」
「まあ、お前には、一生買えないものだ」
「ゆーいと。気にいったなら、今度、買ってやるぜ」
 要が突然、そんなことをお天気みたいに軽く言うから、驚くしかなかった。
「ええ?!」
「要、日向にあうサイズがあるわけないだろうが」
「何言ってんだよ、誠志。ARMANIなら、採寸して作ってくれるだろ?沙希がお前に、プレゼントしてなかったか?」
 沙希とは、誠志の妹。
 香守家は、性格に似あわず、意外と兄妹仲がいい。
 そして、要のアルマーニの発音が、自分と違ってなめらかだった。
 結人の頭上で、なんだか、お金持ちの会話が、繰り広げられだした。
 この流れは、いつものだ。
 要がいつの間にか、結人の物を買ってしまう、あの流れだ。
 要に作ってもらった結人の部屋は、あっという間に、要が買い込んだもので、いっぱいいっぱいだった。
 要は結人に使うお金に、ためらいのたの字も持っていない。
 結人は慌てて、両手を振った。
「か、要さん!おれ、もう、いっぱいもらいました!い、いらないです!」
「そう?スーツな結人も、かわいいと思ったんだけどな。わざと、萌え袖とかに仕立てたい」
「いらないですぅ!」
 要のプレゼント暴走を止めるのは、けっこう難しい。
というか、まだ、成功したことない。
 結人が必死に言葉を探していると、いつの間にか、いつも隣にいる密が、結人の腕をつかんできた。
「結人、これから、どこに行くんだ?」
 話がやっと、進みそうだ。
 密は、結人を助けるため・・・というか、気になったことを、素直に口にしただけだが。
 密のマイペースさというか、空気を全く読まず無視する性格には、意外と助けられている。
 結人は、にこにこ笑って、言った。
「どこかだよ」
と。
 結人の計画に、計画性はない。
 でも、困ったことはない。
 だって、
「じゃ、その辺ブラブラしながら、気になったものでも、撮ってまわるか?」
 要がすぐに、打開案を出した。
 結人に計画性がなくても、それを気にさせることなく修正してくれる人たちに、結人は囲まれていた。
「おっし!結人、いくでー」
「おー」
 泉介が結人の手をつかんで、勢いよく歩き出した。
 結人も手をあげて、元気について行った。
posted by ちぃ at 16:32| Comment(0) | TrackBack(0) | 【小説】みんなの休日 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

みんなの休日 2

「明日のお休み、おれ、みんなで、どこかに行きたいです!」
 生徒会室に集まっていたみんなを見ながら、結人はにこにこと、そう言った。
 でも、結人の突然の発言に、みんなが不思議そうに見つめてきたので、結人は不安になって、ごにょごにょと付け足した。
「み、みんなでいっしょに、でかけたことないから・・・。要さんや香守先輩忙しいし、みんなでいるところ、ビデオに撮れたらなって思って・・・」
 うつむきだした結人を見ていた密が、無表情のまま、誠志を指さした。
「なら、誠志が車を出す」
「何を勝手に決めている、密」
「誠志は、結人と行きたくないのか?遠足だぞ」
「どこで、そんな話になった・・・。まったく、相変わらずお前とは話が成立しないな」
 苛立たしげにタバコに火をつける誠志を、結人は大きな瞳でジッと見つめながら、誠志の制服の裾をつかんだ。
「香守先輩は、行けないですか?」
「明日か・・・。まあ、出れなくもないが」
 捨てられた子猫のような瞳で見上げてくる結人から目をそらしながら、タバコを吸っていた誠志が、今度は要を指さした。
「要の目は、泳いでいるな」
「要さん?」
「え?ええっと、結人。その」
 らしくない要の挙動不審な態度を、どうしたのかなと見ていた結人の頭を、要は撫でた後、「ちょっと待ってね」と笑顔で言ったかと思うと、くるりと後ろを向いて、机の上に乱雑においていた紙に、目を通した。
 要の秘書が作った、要の今後のスケジュールだ。
 要に休みの日は、ない。
「えっと・・・明日・・・。いや、あさって・・・しあさって・・・」
 隙間なくびっしりと埋められた予定を見て、頭を抱えた要に、結人は「・・・すみません」と謝った。
「おれ・・・わがままいいました。要さん、忙しいのに・・・」
 うるうるしながら、うつむいてしまった結人の細い肩を包むように、要は両手を置いた。
「結人、明日行こうぜ!」
「え、でも、かなめさん・・・」
「いいんだよ。結人がしたいこと叶えるって、約束しただろ?明日は、寝坊しないようにな?」
「あ、はい!」
 こみあげてくるうれしさを隠し切れず、笑顔でそういう結人に、泉介が後ろから飛びついてきた。
「結人、よかったなぁ。みんな、一緒やで」
「うん!おれ、うれしい」
 泉介と一緒になって、ぴょんぴょん跳ねる結人をほほえましそうに見ている要に、誠志は視線を向けた。
「どうする気だ。無理だろうが」
 分刻みのスケジュール表を見ながら、小ばかにしたように言う誠志に、要はキレ気味に言い切った。
「どうにかして見せる!」
 結人のお願い事を断れる男は、第1生徒会にはいないようだ。


 そんなわけで、結人とみんなの休日が始まった。
posted by ちぃ at 16:30| Comment(0) | TrackBack(0) | 【小説】みんなの休日 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

みんなの休日 1

読者様から、みんなの休日が読みたいとのリクエストを
頂きましたので、書いてみましたo(⌒0⌒)o


『みんなの休日』

 ある日、学校の中庭で、結人がかわいがっている猫が、数匹の赤ちゃんを生んだ。
 かわいい!
 小さい!
 かわいい!
 小さい!
 さわりたい!なでたい!
 結人は、大きな瞳をきらきらと輝かせて、よろこんだけど、
「赤ちゃんを生んだばかりの猫は、過敏になるから、しばらく離れて見ようね」
と、要にさとされた。
「おれが器だから・・・影響あるのかな・・・」
 そう思ってしまい、しゅんとなっていたら、要が結人の頭をなでながら、生徒会室の備品のビデオカメラを貸してくれた。
 遠くから、見れるようにと。
 機械類に極端にうとい結人だが、見れるのがうれしくて、分からないながらも、密や泉介たちといっしょに、いっしょうけんめいに、撮影した。
 3人で、草むらに頭を突っ込んで、親ねこと子ねこたちを、撮りまくった。
 楽しかった。
 すごくすごく、楽しかった。
 子ねこたちは、よちよち動いててかわいいし、子ねこが離れてしまうと、親ねこがちゃんと迎えにきてくれる。
 猫たちの、仲良し家族な姿を見れるのが、結人はうれしかった。
 カメラを通してみる世界は、見えなかったものまで、いっぱいみれた。
 なんだか、すごく、きらきらして見えた。


 そんな毎日の中で、ふと、ビデオカメラを見て、結人は考えた。
 撮ってみたい『きらきら』があったと。
posted by ちぃ at 16:29| Comment(0) | TrackBack(0) | 【小説】みんなの休日 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする