「結人、おかえり」
「はい!要さん、ただいまです」
結人は、要がおいでおいでする両腕の中に、笑顔で飛び込んだ。
要もうれしそうに、結人を抱きしめた。
ぎゅうっと。
要が結人に、このマンションのカギを渡し、帰る場所のなかった結人に家を作ってあげて以来、ここに来ると、結人か要、どちらかが先に入って、「おかえり」と相手を迎えてあげるのが、習慣になっていた。
「おかえり」「ただいま」は、家がある証拠。
誰かが待ってくれている家が、できたということ。
結人に、居場所ができたということ。
結人にとって、最上の喜びだった。
要はそれを察し、結人をいつも、喜ばせてあげていた。
「今日はね、結人に、プレゼントがあるんだ♪」
要はそういうと、結人が遠慮する言葉を発する前に、キッチンからプレゼントを持ってきた。
「はい、結人。ハッピーバレンタイン」
「わぁ!すごい、すごい!チョコが流れてる!これなんですか?」
「チョコレートフォンデュ♪別名、チョコの滝♪」
結人の目の前には、高さ30センチほどのチョコレートの滝と、フォンデュ用のフルーツやマシュマロが並べられた。
すべて、要の手作りだった。
大きな瞳をキラキラと輝かせてチョコを見つめる結人を、結人だけの指定席、要の両足の間に座らせながら、要は結人にチョコを勧めた。
「結人、食べてごらん?そこの果物とかマシュマロを、チョコにつけて食べるんだよ」
「はい!」
初めて見るチョコレートの滝に、どきどきおずおずとしながら、結人は、マシュマロにチョコをつけて、口に入れてみた。
口の中で、みるみるマシュマロが溶けていく。
結人の顔も、とろけていく。
それを見る要も、幸せで、とろとろになっていく。
結人が、今日も、かわいい。
「結人、おいしい?」
「はい!こんなの、おれ、はじめて食べました!」
「よかった」
要がうれしそうに、腕の中ではしゃぐ結人のおでこに、ちゅっと、キスをした。
恥ずかしそうに首をすくめながら、えへへとキスされたところをおさえる結人を、要はほほえましく見ていたが、結人の唇にチョコレートがついているのを見て、
「結人、チョコついてる。かわいい」
「・・・ん・・・」
要は、結人の唇のチョコを、ペロっとなめた。
途端、みるみる、結人のほっぺが、真っ赤に染まっていく。
結人はごまかすように、「あのね」と声を出した。
「か、かなめさん、バレンタインってなんですか?」
「バレンタインはね、好きな相手にチョコレートをあげて、告白する日のことだよ」
要が微笑みながら、結人の顔を覗き込み、まっすぐに瞳を見つめた。
「すきな相手?・・・すきな・・・」
要のきれいな瞳に、結人の顔が映っているのが見え、自分のことを「すき」と言われているのだと気づき、結人の顔が炎上し、ぼふっと煙を上げた。
「お、お、おれ、おれは」
「結人、かーわーいーい」
照れる結人も、かわいい。
結人のほおに、要は自分のほおをくっつけて、むにゅむにゅしてやると、結人があたふたしながら、話題を探し出した。
顔が近すぎて、もっともっと、照れてしまったから。
「か、かなめさんは、た、食べないですか?」
「結人が食べされてくれるなら、食べようかな?」
「え、えっと」
「結人、あーん」
「は、はい!どうぞです」
結人があわてて、要があけた口に、チョコマシュマロを入れた。
「はぁー。なんか、幸せ」
結人が、照れながらも、あーんをしてくれるなんて、うれしすぎる。
両足の間にいる結人を、後ろから抱きしめながら、要が幸せそうに、息をはいた。
その吐息が、結人の耳の奥をくすぐり、結人が「ひゃ!」と声を上げながら、体をビクつかせた。
「・・・か、かなめさん・・・くすぐったい・・・」
結人が、うるうると潤んだ大きな瞳で、要を見上げてきた。
かわいさの中に、色気を含んだ瞳だった。
結人が、いつもと違って、敏感になっている。
しかも、嫌がってない。
もっと、してほしそうにしてる。
でも、恥ずかしくて言えない、そんな感じに。
要だけに見える結人の猫耳が、きゅーんとかわいく、たれたれになっていて、要の理性が、ぶちっと音を立てて切れた。
「か、かなめさん?」
「チョコもいいけど、オレは、結人を食べたいな?」
「ええ?!お、おれを?!」
「ダメ?」
結人を抱きしめ、耳元で少し甘えたようにささやいてみると、結人の体が、また、ぴくっと揺れた。
「結人、ダメ?」
もう一度、吐息を吹きかけながら、ささやくと、結人はもごもごしていたが、やがて、顔を隠すようにうつむきながらも、恥ずかしそうにではあるが、はっきりと言った。
「・・・か、かなめさんが・・・したいなら・・・」
それは、無理しているわけでも、気を使ってウソをついてるわけでもない、結人の姿だった。
結人も、したいと思っていると、伝わってきた。
「え?マジでいいの?」
本編ではありえない状況に、要のほうが逆に、驚きの声を上げてしまった。
でも結人は、こくんと、うなずいた。
「・・・はい。かなめさん、やさしいから・・・」
その言葉に、結人が嫌がったらやめようと思っていた気持ちは、一瞬で吹き飛んだ。
かーっと赤くなっている結人を見て、要は祈らずにいられなかった。
(バレンタインの神様!読者様!!この瞬間をありがとう!!オレに幸せをありがとう!!)
「・・・?かなめさ・・・・・ん」
要はテーブルの上のチョコを、人差し指ですくうと、結人の口に、そっと入れた。
そして、結人の舌にチョコを置くと、指を引き抜き、代わりに、そこに唇をつけた。
「・・・ん・・・」
「・・・結人」
舌を入れてみると、チョコレートの味がした。
※続きは、内容があっはーんな、18禁のため、深淵で連載します。
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