2016年01月15日

要と結人の交換日記 3

「か、かなめさん、おれも、その、かきました」
「お、結人、早かったね。ありがと」
 生徒会室の入口で、結人は恥ずかしそうに、要に交換日記を手渡すと、
「そ、それじゃあ、お、おれ、行きます」
 ひゃーっと声を出しながら、結人は、置き逃げするように走って行った。
 ちゃんと、きれいな字で書けた自信も、しっかりとした文章を書けた自信もなくて、恥ずかしかった。
「結人?・・・逃げちゃった」
 結人がいなくなった後を、なんとなく見つめていたけど、結人が完全に見えなくなってから、要は、日記帳を開いてみた。
 結人は脚がかなり遅いので、長い廊下から消えるまで、時間かかったけど。
 逃げる結人の小さな体も、かわいいから、見てて楽しいし。
 さて、交換日記に、結人は何を書いたのかな?
「結人の字、あいかわらず、丸っこくてかわいい」
 結人は、あんまり字がうまくない。
 というか、子供っぽい字なのだ。
 書き順とか理解せず、子供が手本の字を真似て書いた時のような感じ。
 でも、要の欲目には、そのたどたどしさが、一生懸命で、かわいいにしか見えない。
 そんな結人の日記は、結人にあわせてひらがなを多用した要以上に、ひらがなが多くて、さらにかわいかった。
 結人の似顔絵なのか、子ネコのイラストが笑ってる。
『きょうは、密といっしょに、ねこさんと遊びました。
 黒ねこです。あ、泉介もきました。
 おれ、なにをかいたらいいか、わからないけど、要さんがいつもおれのこと、
 考えて、思ってくれてるのは、わかりました。
 すごく、うれしかったです。いつも、ありがとうです』
 1ページ使って書いた要の日記と違って、結人は5行だった。
 でも、そんな結人を、要は怒ったりせず、生徒会室のドアにもたれかかって、くすっと微笑んだ。
 結人の一生懸命さを、要は知っているから。
 どんなに短くても、これを書くのに、必死になってくれたことは、伝わってきたから。
 結人の文字の下には、消しゴムで消されているけど、なんども書き直したあとが残っていた。
 どうしたら、気持ちを伝えられるか?
 どうしたら、相手をよろこばせてあげられるか?
 いっぱい考えて、消して、考えて、消してを、繰り返してくれたのだろう。
 結人は、そういうことに使う労力を、いとわない。
 つらいとも思わない。
 普通だと思って、ただただ、まっすぐにがんばる子なのだ。
 普通のことだから、どれだけ大変だったかを、相手に伝えたりもしない。
 そして、その大変さに、見返りを求めてこない。
 九条家なら、何だって、叶えてあげられるのに。
「こういうことを、計算でできない子だから、オレって幸せなんだよな」
 心が温かくなっていくのを、止められなかった。
「さってと、次はなに書こうかな」
 結人の負担にはなりたくなかったけど、結人に伝えたい気持ちは、まだまだ、いっぱいあった。
 どれだけ、結人がいい子で、どれだけ、そんな結人に癒されてて、どれだけ、そんな結人が大好きか、書ききれないくらい心の中にある。
 交換日記っていいかもと、一人、にやけるのを止められなかった。

『結人を好きになれて、オレは幸せだよ』
『結人と出会えて、オレはうれしいんだ』

 どっちの言葉から、書き始めようか。
 ただ、それだけでいい。
 結人に、その見返りを求める言葉は、書きたくない。
 それ以上望んで、追い詰めたり怖がらせたりしないって、思っている気持ちが伝わればいいな。
 書きすぎて、結人を困らせたりしないように気をつけながら、でも、喜んでくれるように、また笑ってくれるように、たくさん考えて、書くからね。

「オレは、いつでも、それだけを想っているよ」
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