2016年01月21日

みんなの休日 3

「結人、ビデオの充電はしてきたかいなー?」
「うん、泉介!ばっちりだよ」
 結人は、ビデオカメラを楽しそうに、ひょこっと持ち上げた。
 途中で充電がきれたら、たいへんだ。
 だから、今日はまだ、一度も使っていない。
 ねこさん家族の姿は、帰ってから撮るつもりだ。
「なら、ガンガン撮るでー」
「おー」
 仲良し泉介&結人コンビが騒いでいるのは、結人たちの学校がある人工島ではなく、人工島から離れたところにある、緑の多い公園だった。
 誠志の車に乗せてもらい、連れてきてもらった。
 密もいる。
 でも、要はいなかった。
 というか、昨日、生徒会室で約束した後から、ずっといない。
 この公園を待ち合わせ場所に指定したのは、その要だ。
 結人が、わくわくしすぎて眠れず、寝ている誠志の部屋を朝早くに襲撃して、早くきすぎてしまったため、約束の時間にはまだなっていなかったが、
「要さん、まだかなぁ」
 気付けば、公園の入り口を、何度も見てしまう。
「この近くに、要名義の九条家の会社がある。そこから来るつもりなんだろうな」
「香守先輩、そうなんですか?」
 誠志が難しそうな話を始めるのかなと、結人が誠志のほうを向いた時、結人の背後を、一台のバイクが猛スピードで走り抜けた。
「え?」
 バイクは、ブレーキをかけながら、更にスピードを殺そうと、車体を横むかせていたが、スリップしたのか、公園の木に派手に激突して、止まった。
 あのバイクは、確か・・・、
「要さん?!」
「いってて・・・。お、結人。待たせちゃったかな?ごめんね」
 ヘルメットをとりながら、要が何事もないかのように、笑顔で手を振っていた。
 その横を、バイクから取れたタイヤが、転がっていく。
 結人が知っている限り、3回目の廃車状態だ。
 要と知り合って、約2か月。
 要のバイク破壊率は、高い。
「要さん!大丈夫ですか?!」
「ん?ああ、これくらい、へーきへーき」
 結人が、大慌てで、心配して駆け寄ったら、頭をなでられた。
 ついでに、寝癖もなおされた。
 その後ろで、誠志が呆れたように、ため息を吐いていた。
「まったく。要、いい加減にしろ。死ぬ気か?それとも、捕まる気か?」
「別に、これくらい、どーってことないし。それに、捕まったら・・・・・・オレの権力でもみ消すから安心しろ」
 不敵な笑みを浮かべる要は、背負っていたリュックから、普段着とスニーカーを取り出すと、今着ているスーツと革靴とメガネを脱ぎ捨て、着替えだした。
 公園で堂々と。
 要は、仕事着だったようだ。
 結人は何となく、その高そうな布地を、手にしてみた。
 さっきの衝撃で破れたそれも、バイクと一緒に、捨てる気のようだ。
「えっと・・・あ・・・まに?」
 たどたどしくスーツのタグを読んでみたら、誠志につつかれた。
「日向、Rを抜かして読むな。アルマーニだ」
「あるまーに?」
「まあ、お前には、一生買えないものだ」
「ゆーいと。気にいったなら、今度、買ってやるぜ」
 要が突然、そんなことをお天気みたいに軽く言うから、驚くしかなかった。
「ええ?!」
「要、日向にあうサイズがあるわけないだろうが」
「何言ってんだよ、誠志。ARMANIなら、採寸して作ってくれるだろ?沙希がお前に、プレゼントしてなかったか?」
 沙希とは、誠志の妹。
 香守家は、性格に似あわず、意外と兄妹仲がいい。
 そして、要のアルマーニの発音が、自分と違ってなめらかだった。
 結人の頭上で、なんだか、お金持ちの会話が、繰り広げられだした。
 この流れは、いつものだ。
 要がいつの間にか、結人の物を買ってしまう、あの流れだ。
 要に作ってもらった結人の部屋は、あっという間に、要が買い込んだもので、いっぱいいっぱいだった。
 要は結人に使うお金に、ためらいのたの字も持っていない。
 結人は慌てて、両手を振った。
「か、要さん!おれ、もう、いっぱいもらいました!い、いらないです!」
「そう?スーツな結人も、かわいいと思ったんだけどな。わざと、萌え袖とかに仕立てたい」
「いらないですぅ!」
 要のプレゼント暴走を止めるのは、けっこう難しい。
というか、まだ、成功したことない。
 結人が必死に言葉を探していると、いつの間にか、いつも隣にいる密が、結人の腕をつかんできた。
「結人、これから、どこに行くんだ?」
 話がやっと、進みそうだ。
 密は、結人を助けるため・・・というか、気になったことを、素直に口にしただけだが。
 密のマイペースさというか、空気を全く読まず無視する性格には、意外と助けられている。
 結人は、にこにこ笑って、言った。
「どこかだよ」
と。
 結人の計画に、計画性はない。
 でも、困ったことはない。
 だって、
「じゃ、その辺ブラブラしながら、気になったものでも、撮ってまわるか?」
 要がすぐに、打開案を出した。
 結人に計画性がなくても、それを気にさせることなく修正してくれる人たちに、結人は囲まれていた。
「おっし!結人、いくでー」
「おー」
 泉介が結人の手をつかんで、勢いよく歩き出した。
 結人も手をあげて、元気について行った。
posted by ちぃ at 16:32| Comment(0) | TrackBack(0) | 【小説】みんなの休日 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする
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