2015年12月25日

第19話時点、人気投票1位ご褒美(要) 7

「母さん、オレね、17才になったよ」
 要は唐突に、そう切り出した。
 幼い姿の要がそんなおかしなことを言いだしたけれど、あやめは微笑んで、続きの言葉を待ってくれた。
「母さんがいなくなってから、5年間、寂しかったり、色々悩んだりしたけど、死んだりしないで、ちゃんと生きたよ」
「えらかったのね」
「うーん、えらくはなかったかな」
「そうなの?」
「うん。誠志と一緒に、色々悪いことした。・・・でも、誠志がいてくれて、オレは救われたんだ」
「よかった」
 あやめが嬉しそうに、ふわりと笑った。
 だから、要も笑った。
「誠志とは、今でも一緒につるんでる。悪友みたいなもんだよな。あと、密もずっと一緒にいてくれてる」
「大きくなったかな?」
「密、超デカくなった。オレの身長抜いたんだぜ。兄貴分のオレの威厳台無し。でも、今でも、中身はオレにべったりな甘えん坊だけど。まあ、それがうれしいんだけどね。それに、密なりに、自立しようとがんばってるみたいだし」
「要を支えたいのね」
「みたい。密の成長は、オレとしては、うれしくもあり、寂しくもありって感じかな。・・・そして、オレはね」
 要は一度、言葉を切ってから、まっすぐにあやめを見つめた。
「好きな子ができたんだ。命をかけてもいいと思えるくらいに」
「そうなのね」
「うん。男の子なんだけど、許してくれる?」
「もちろん。要が選んだ子なら、まちがいはないもの。どんな子なのかな?」
「いいとこありすぎて、一言じゃ言い表せないけど、とにかく、一生懸命な子かな。あと、人を幸せにできる不思議な子。あの誠志の心までとかしたくらいだし。閉じこもってたオレの心も、とかしてもらった」
 要の心の中に、いつもあの結人の笑顔がある。
 いつでも、思い出せる。
 それが、今の要を支えている。
 そんな要を見て、あやめは安心したようだ。
「要は、幸せなのね」
「うん、幸せ。その子がいるだけで、毎日が楽しいんだ」
 だから、もう、それ以上に望むことなんかないと思っていた。
 だけど、大切な結人を守り続けたいから、そのために叶えたい願いが、一つだけあるんだと、母に会って分かった。
「だから、オレは、その子のために、なんでも頑張りたいんだ。守り抜きたい。誰にも負けたくない。一生かけて、大事にしたい」
 でも、うまくいかない時がある。
 辛さに、心が折れそうな時がある。
 立ち向かわなければならないものが、大きすぎて、負けそうな時がある。
 その度に、自分自身の頑張りが足りないんだと、自分を責めてしまう。
 そんな程度の自分は、いつかくじけ、逃げ出してしまうんじゃないかと、怖い時がある。
「だから、オレがもっと頑張れるように、くじけないように、母さんに・・・」
 要は、少しだけ、言葉に詰まった。
 けれど、願いは口にしてこそ、叶うもの。
 その勇気がある者にだけ、与えられるもの。
 願いへの道は、自分で切り開く。
 だから、母をまっすぐに見つめる瞳を、要はそらさなかった。
「母さん。オレを、見守っていてほしいんだ」
 あやめは、要のことを、憎んでいるかもしれない。
 恨んでいるかもしれない。
 そんな存在を、見守ってほしいなんて、おこがましいかもしれないけれど、大好きな人が応援してくれていると思えたら、要はどれだけでも、頑張れる。
 最大限の努力をし、自分自身で夢を叶えようとする要にとって、それだけが、願いだった。
 人の心は、努力しても、動かせない時があるから。
「愛してほしいと言わないから、強くあり続けたいオレの、支えになって下さい」
 要は、願いを叶えるチケットを握りしめながら、けれど、それに願いをうったえるのではなく、目の前のあやめに頭を下げ、願った。

第19話時点、人気投票1位ご褒美(要) 8

「あれ?」
 要がまぶたを開くと、そこはとても見慣れた世界だった。
 複雑な感情が取り巻く九条家ではなく、いつもの生徒会室。
 その自分の椅子に、座っていた。
「戻ってきたのか」
 なんだか、変に緊張していたのか、ハァと大きな息を吐いた途端、体の力が抜けた。
 体のサイズは、元の高校生の自分に戻っている。
 手も、つぶれそうな紅葉の手じゃなく、指がゴツゴツした、刀を持つのに作った大きな手になっていた。
 その手に、まだ、願いを叶えるチケットが残っていた。
 願いは、あやめに断られたのだから。
 要のことを、見守っていてほしいという願いは。
「・・・そいうことか」
 要は、左耳のピアスをいじりながら、頭の中で答えを出した。
 ピアスには、母が生前つけていた指輪のトップがついている。
 要はそれを、肌身離さずつけている。
 それを触っているうちに、目頭が熱くなってきた。
 同時に、母に願いを伝えた後、母が口にした言葉を思い出した。
 あやめは、こういったのだ。

『そのお願いは、叶えてあげられないわ』
と。
 そして、続けてこういった。
 変わることのない、やさしい笑顔で、微笑みながら。

『息子のことを見守って、応援し続けるのは、普通のことだから、もう叶っているもの』

 だから、要の手元に、願いのチケットが残ったのだ。
 そう言ってくれた時の、あのあやめの優しい笑顔は、一生忘れることのない思い出になりそうだった。
「なんか、オレ、すごい、がんばれそう」
 左耳の飾りの重さが、少しだけ軽くなったような気がした。
 要は、ピアスを触っていた手を離すと、その手で、願いのチケットを手に取った。
 そして、窓から空を見上げ、その手を伸ばした。
 そこには、どこまでも続く青空が広がっていた。
「今、オレ、一人だけど、もうすぐみんなくるよ」
 授業が終わったら、結人たちがいつも通り来てくれて、ここはとても楽しい、にぎやかな場所になるだろう。
「オレ、結人を守るために頑張るからさ、そんなオレを見守っててくれる母さんは、どうか」
 要は空に向かって、微笑んだ。
 自分で思っている以上に、とても穏やかな顔をして。
「どうか、母さんが、あの世でも、笑っていられますように」
 要が手を開くと、優しい風が吹いてきて、願いを叶えるチケットを、空へと舞いあがらせた。
 チケットは、ゆらゆらと揺れながら、やがて、青空に吸い込まれるように、消えた。
 その先にいるだろう、母の元へと、息子の想いを届けるために。