2015年12月30日

4月5日要お誕生日小説 4

「ゆーいと。今日もかわいい。いい匂いする」
「要さん?」
 要のマンションの9階の部屋で、結人は要に、ぎゅうっと抱きしめられていた。
 昨日まで、実家に帰っていた要が、朝戻ってきたかと思うと、結人を抱きしめて、幸せそうな顔をしていた。
「はぁー。結人といると、めっちゃ癒される。九条家に帰ると、疲れんだよな。沙希も暴れたし。誕生日は、やっぱ、結人と過ごしたかった」
「たんじょうび・・・?えっと、だれのですか?」
「オレの。オレ、18才になったよ」
「え・・・・・・ええ?!」
 要の腕の中の結人が、驚きで、全身がびくんと揺れた。
「お、おれ、知らなかった。プレゼント、なにも用意してないです・・・」
 どうしようと、おろおろしだした結人を、要はぎゅっと抱きしめてから、頭をなでなでした。
 だって、要は結人に、わざと教えなかったから。
 結人は、他のヤツの誕生日だったけど、その時、プレゼントをあげるために、自分のお昼代を使っていた。
 お金ないのに、ムリをして。
 毎日、グーグーなるお腹に力を込めて、必死に笑顔を作って、がんばっていた結人。
 要はそれをさせたくなかったから、結人には、誕生日のことは言わなかった。
 申し訳なさそうに、大きな瞳をうるませ出した結人の顔を拭ってあげてから、要は机の上から包みをとった。
「だからさ、こーれ。結人、オレに作ってほしいな」
「・・・ひも?」
 結人が包みを開けてみたら、たくさんのカラフルなひもと、小さな石が2つ出てきた。
「結人に、ミサンガ作ってもらおうと思ってさ」
「えっと、みさ・・・」
「ミサンガ。この紐を編んで作るんだよ。紐が切れたら、願いが叶うらしいんだ。結人からもらったものが切れるのは、悲しいけど、切れても捨てたりしないし、オレさ、叶えたい願いがあるんだ。結人が作ってくれたら、叶いそう」
「要さん、お願いがあるんですか?」
 思ったことはすぐ行動して、やり遂げてしまうなんでもできる要に、叶わないお願いがあるのに、結人は驚いた。
 そんな驚きを崩すように、優しく結人の頬を撫でてから、要はちょっと意味ありげに笑った。
「そっ。お金じゃ叶わない、オレの一番のお願いごと」
「そっかぁ。要さんのお願いごとかぁ」
 結人は少しだけうつむいて、お願い事・・・と呟いてから、「やります!」と元気に答えた。
 いつも助けてもらってばかりの要に、なにか恩返しができるのが、すごくうれしかった。
 結人の表情が、自然とにこにこ笑顔になった。
「おれ、へたかもしれないけど、がんばって作ります。要さんの、お願い事の役にたつです」
「うん。結人、ありがとう。あとね、もう一個だけ、結人にお願いがあるんだけど、いいかな?」
「はい。なんでもやります」
「オレもね、作っていい?結人の分。で、おそろいにしたいんだけどな」
「へ?おそろいですか?」
「うん。ダメ?」
「ひゃ!」
 要が耳元で、囁くようにお願いするので、耳の穴に吐息がかかってきて、くすぐったくて、思わず結人は声をあげてしまった。
 そして、慌てふためいて、ぶんぶんと首を横に振った。
「だ、だいじょうぶです!おれも、お願いしたいことあるから!だ、だから、ささやくの・・・だめです!」
「恥ずかしい?」
「だ、だって・・・」
 赤くなっていく顔を、結人は両手で隠した。
 それも、かわいらしい姿に、要には見えた。
 結人はけっこう、耳が弱い。
 すぐくすぐったがるし、こちょこちょすると首をすくめるし、甘噛みすると感じたりする。
 真っ赤になって照れまくる姿がかわいすぎて、ときどき無性にこうして、耳元に息を吹きかけるように、近距離で囁いてみたくなる。
 でも、かわいがり過ぎて、結人が困ってはいけないので、「ごめんね」と言ってから、おでこに優しく、謝りのキスをした。


4月5日要お誕生日小説 5

「じゃあ、さっそく作ろうか?」
「あ、はい。・・・あれ?要さん、この石は?」
 紐と一緒に包みに入っていた2つの石を、結人は手のひらに乗せてみた。
 透明の石と、青い石。
 小さいそれらの石には、穴が開いていた。
「それね、オレと結人の誕生石。ミサンガに編みこんでもらおうと思って。こっちの透明なのが、オレの4月の水晶で、こっちの青いのが、結人の9月のアイオライト」
「へぇー。おれ、はじめて見ました」
「ホントはね、4月はダイヤモンドで、9月はサファイアが有名みたいなんだけど、目立つし、値段がさ、高校生の恋人っぽくないかなと思って、こっちにしたの。あ、この2つの石は高くないから、安心してね」
 結人が、ダイヤモンドは知ってる!宝石は高い!という目をして、びくびくしだしたのを見て、要は高くないと付け足した。
「それにね、水晶はお守りになるんだってさ。色んなものから守ってくれるお守りに。オレ、色々あるから、いいと思うんだよな」
「そうなんですね!よかったぁ」
 要が守られると聞いて、うれしくてほっとした顔をしていたら、結人の頭は、要の手に支えられて、引き寄せられた。
 そして、吐息がかかる近距離で、瞳を見つめられた。
「結人のアイオライトにはね、『はじめての愛』って意味があるんだよ。一途な愛を、力強く守ってくれるんだって。オレ、結人に愛されたいな」
「え、えっと・・・おれ・・・」
「結人が、本気で好きになった相手に・・・、そんな初めての相手になれたら、うれしいな」
「お、おれは」
「大丈夫。ちゃんと約束は守るから。いそがないよ」
(結人と恋人になれたら、うれしいけどね)
 そう、心から思うけれど、結人を困らせてはいけないので、心の中だけで呟いた。
 結人が恋の相手を決めるのを、急がせないと、前に約束したから、今日はこれ以上は、困らせない。
 要は、笑いながら体を離すと、結人の頭を、あやすように撫でた。
「さてと、作ろっか?」
 安心させるような顔を向けると、結人は照れたままの顔で、「はい!」と元気よく答えてくれた。


4月5日要お誕生日小説 6

 結人が、自分のために、一生懸命、ミサンガを作ってくれている。
 その姿を見るだけでも、要は誕生日プレゼントをもらったような気がして、幸せだった。
 早く会いたくて、九条家からバイクを飛ばして帰ってきたけど、さすがに誕生日当日は、間に合わなかった。
 それでも、一緒にいれることが幸せだった。
 ただ・・・。
「ゆーいと。オレにくれないのかな?」
「だ、だめです。おれ、へたです!」
 結人はできあがったミサンガを、両手で包んで、後ろ手に隠してしまった。
 初めて作ったそれは、力の入り方のバランスが悪くて、あんまりうまくなかった。
 しかも、きれいに編んでくれた要のミサンガの前に、とても出せるものではなかった。
 気にしないという要が、もらおうと近づくと、近づいた分だけ、結人は逃げた。
「ゆーいと」
「だめー」
「オレ、結人が初めて作った、それがほしいな」
「へただもん」
「いいのに。それに、その方が、手作りっぽいし、うれしいな」
「いやー」
 逃げて、近づかれてを繰り返していたら、結人の背中は、壁にぶつかった。
 その壁に、要が結人を挟み込むように、両手をついた。
「ほい、つかまえた♪」
「あう・・・あう・・・」
「うーん。結人が嫌がるなら、無理強いはしないけど・・・どうしても、ダメ?」
「か、かなめさん・・・その顔したら・・・反則です・・・」
 結人は、至近距離で見つめてくる、ちょっと困ったような、悲しそうな要のまっすぐな瞳に、おろおろした。
 要が以前していた髪型、伸ばした前髪があった頃は、近くで見られても、顔が隠れてて、まだ大丈夫だったのに、要が前髪を切ってからは、あまりにまっすぐ向けられるきれいな瞳が、そのまま見えて、照れるしかなかった。
 しかも、どうしても、髪を切った時に言われたことを思い出してしまって、恥ずかしくなってしまう。
「だって、結人の手作り、ほしいし・・・」
 おまけに、しゅんとして、そんな風に甘えたように言われて、結人は白旗を上げるように、不細工ミサンガを差し出した。
「やったね!」
 要が、子供っぽく、むじゃきに笑ってみせてくれたので、結人はまぁ、いっかと思った。
(おれなんかでも、要さんの役にたてたんだ)
 えへへと笑っていたら、結人の細い腕に、要が作ったミサンガがつけられた。
 要は、結人が作ったミサンガを、自分の手につけた。
 その手と手で、その指を絡めるように、手を握られた。
「要さん?」
「結人、笑って」
 そう言ったかと思うと、要はポケットから携帯電話を取り出し、二人のミサンガが見えるように、二人の姿を映像に残した。
「オレ、この画像を、待ち受けにしようかな。あ、でも、今までの結人の寝顔写真も、いつでもみたいし」
 楽しそうに、本当に楽しそうに携帯をいじる要を見て、結人は思わず、要の服を引っ張った。
「ん?どうした?お腹すいたかな?ケーキはすぐ作るから、もうちょっと待ってね」
「あ、いえ、その」
「結人?」
「あの・・・一日おくれたけど、要さん、お誕生日おめでとうございます」
 結人が口ごもるように、少しうつむいたら、要は結人をせかしたりせず、笑って待っていてくれた。
 だから、結人は言葉を探せた。
 だから、言えた。
 続く言葉を。
「おれ・・・要さんが生まれてくれて、よかったなっておもいます。すごくすごく、おもいます」
 一瞬、驚いたような顔をした後、要は、ふわっと笑った。
「結人は、やっぱりすごいね」
 一番ほしい言葉をくれる。
『生まれてこなければよかったのに』
 そんな言葉の中で生きてきた要にとって、こんな結人が、愛しくて仕方ない。
 泣きそうになる。
 結人のことが、好きすぎて。
 結人が、いつもいつも、癒してくれて。
 かけがえのない存在が、目の前にいてくれる喜びは、何にも変えられない宝物だった。
「結人、最高の誕生日を、ありがとうね」

 要が叶えたい願いは、ただ一つ。
 ミサンガに願ったのは、ただ一つ。

『結人が、笑って生きていける未来を、作りたい』

 それだけ・・・。