2016年01月08日

結人君いろいろまちがってます(携帯編) 4

「おれって・・・いったい・・・」
 ばかすぎると、落ち込んでいた結人だが、さっき理事長に言われた言葉が、気になってしまった。
「理事長・・・また、要さんに、ひどいことするのかな・・・」
 要が泣くからそうしろと、言われた。
 自分の失敗のせいで、また、あの優しい人が傷ついたら嫌だと思い、結人は怖い気持ちをむりやり抑えて、理事長へと、もう一度、電話をかけた。
「あ・・・あの、理事長。要さんに、もう、ひどいことしないでください・・・。お願いします」
 電話口から、フフと笑う声が、聞こえた。
 でも、理事長とはどこか違う、低音の怪しさを含んだ笑い声。
「理事長?」
「僕も九条君は嫌いですから、たっぷりと酷いことして頂いて、泣かせてもらえると、嬉しいですね。日向君は、僕の為に、啼いてくださいね。よがってくれてもいいですよ」
「・・・えっと」
「僕は『黒崎』ですよ。カ行仲間ですね。まぁ、さすがに、あの意味不明な方と間違われるのは、楽しくないですが」
 結人の血が、また引いた。
 黒崎。
 くから始まる名前の人。
 結人のアドレス帳には、『香守先輩』『要さん』『神無理事長』の後に、『黒崎せんせ』と続いて入っている。
 黒崎だけ、中途半端な入力なのは、登録している途中で怖くなって、操作法がよくわからなくなって、そのままになっているためだ。
 結人が、固まった。
 目が、点になった。
 かぱぁっと開いた口が、閉じれなくなった。
「どうしました?日向君。君の声を録音して、夜のお伴にしたいので、いい声を出して頂けると嬉しいですね」
「・・・・・・け」
「け?」
「携帯なんか、きらいだー!」
 結人の困った声が、男子寮に響いた。


 そんな感じで、毎日、最低4回以上繰り返される結人の間違い電話は、けっこう、みんなに波紋を呼んでいる。

結人君いろいろまちがってます(携帯編) 5

「んー!」
 結人が、かわいい顔をしかめて、携帯を必死に操作していた。
 要に使い方を教えてもらって、登録名を変えていたのだ。
「よし、できたー!」
 結人の顔が、ぱぁっと輝いた。
 もう、間違い電話をやらかさないために、『香守誠志』を『誠志さん』に変えたのだ。
「これで、おれはもう、ばかじゃないぞ。・・・えへへ。『誠志さん』って、なんか、はずかしいな。怒られるかな」
 でもこれで、今度からは、『要さん』にかけようとして、同じカ行で上下に並んでいる『香守先輩』にまちがってかけることは、ないはずだ。
『誠志さん』なら、サ行だ。
 結人はうれしくて、誰かに報告したくて、こんな時、いっしょにさわいでくれる人に電話をかけてみた。
「泉介ー。おれね、携帯のアドレス、変更できたんだよ。すごいだろ?ばかってもう、いわせないぞ」
「日向・・・」
 電話口から、怒ったような、呆れたような、低い声が響いてきた。
 しかも、泉介らしくない呼び方をして。
「ん・・・と?」
「お前は、今度は俺を、どこに入れた?俺は『香守誠志』だと、何回言ったら分かる?」
 結人の血が、さーっと引いた。
 さんざん、『要さん』と間違い続けて怒らせた相手に、またかけてしまっていた。
「え?え?なんで?」
 慌てて、携帯のアドレスを見てみれば、『誠志さん』と『泉介』は、同じサ行の中、上下に並んでいた。
「・・・おなじ・・・『せ』だ・・・」
「約束通り犯してやるから、俺の部屋に、今すぐこい」
「ご、ごめんなさーい!」
 怖いです!いきませーん!と、涙を浮かべて叫びながら、結人は必死に、電話を切った。

結人君いろいろまちがってます(携帯編) 6

「おれ・・・どこまで、ばかなんだろう・・・」
 誠志と泉介が同じ『せ』で並ぶことすら、気付かないとか、落ち込むしかなかった。
 結人は、とりあえず、誠志にこれ以上間違い電話をしたら、お仕置きされるとぶるぶる震えながら、泉介の登録名に苗字を追加して『赤井泉介』に変えた。
「よ、よし!今度こそ、まちがえないはずだ」
 サ行『誠志さん』は、カ行『要さん』からも、ア行『赤井泉介』からも遠ざかった。
 はぁーっとため息をつきながら、今度こそ、泉介に電話をかけてみた。
 この、なんだか疲れた気持ちを、分かってほしかった。
「せんすけー。おれね、まちがいばっかりしてる。香守先輩におこられたよ」
「・・・・・・・・・・・・・・」
「泉介?」
 泉介が黙っている。
 いつもなら、結人が話し終わるのも待たずに、色々なおもしろい話をしてくれるのに。
 なんだか、この展開は、いやな予感がした。
「えっと、泉介・・・だよね?」
「これが、結人の間違い電話なのか・・・。俺は間違われてなかったのに、間違われた。なんだか、他の奴と間違えられるのは、ショックだ」
 この淡々とした、人の話を聞いてない感じの物言いは・・・。
「・・・ひ・・・ひそか・・・?」
 電話口から、頷く音が聞こえた。
「俺は『ひ』だから、安心していた。どうしてそうなったか、分からない」
 そう密にいわれても、結人も驚くしかなかった。
 慌てて確認してみれば、ア行で、『赤井泉介』と『朝霧密』が、上下に並んでいた。
 結人は、うっかりしていた。
 忘れていた。
 要の名前と似てて間違っていたから、『密』の登録名にも、苗字を付けたことを。
 そのせいで、間違い電話をかけていなかった密にまで、かけてしまった。
「密、ごめん!」
 とりあえず、この激しく動揺した心を抑えてから、いっぱい謝ろうと思って、結人は電話を切った。