2016年01月21日

みんなの休日 4

「あの・・・こんにちは」
 結人は、目の前にぬぉっと現れた物体に、泉介の後ろに隠れながら、おずおずと挨拶をした。
 物体は、ピっと手をあげて、無言の挨拶を返してきた。
「せ、せんすけぇ。これ、なに?」
「結人、何、びびっとんねん。ゆるキャラやで。結人、好きそうやないか」
「ゆ、ゆるキャラ?」
 ケラケラと結人を笑う泉介が指さす先には、大仏系ののっぺり顔をした着ぐるみがいた。
 ぶらぶらと歩いていた街の通りで出会ったのだが、なんだか、キモかわいい・・・いや、キモい系だった。
 それが、チラシを配ってきたのだ。
 無言で。
 圧倒的な圧迫感を持って、差し出されるチラシ。
 こわい・・・。
 ゆるキャラが何かも、結人には、わからなかった。
 助けを求めるように、結人は後ろにいる要を、見つめた。
 困った時の、歩く辞書な要お兄ちゃんに。
「か、かなめさん、知ってますか?」
「うーん、オレも、知らないな。泉介、なんだよ、そのキモいの。子供が、泣いて逃げてんじゃんか」
「会長はんも、知らへんのか?ドラッグストアなんでも屋が誇る、ゆるキャラ!ゆるキャラランキング堂々の2795位の『なんだもちゃん』やで」
「2795位とか、そんなマイナーラインのお友達、知らねぇし」
 世間知らずの結人や密、お坊ちゃま育ちの要や誠志たちが知らない、普通の学生の常識的なことを知っているのは、助かっているが、泉介は妙なことにも詳しい。
 誠志が、自分のスマートフォンで検索したところ、なんだもちゃんは、堂々で毎年のランキング最下位人気だった。
 ゆるキャラ戦国時代の今、どうやって、生存を許されているのだろうか。
 でも、その情報が、結人の心を動かした。
 結人は、少しうつむいて考え込んでいたが、やがて、ふわりと笑って、なんだもちゃんを見つめた。
「最下位なんだね・・・。おれと同じだ。おれもがんばるから、いっしょにがんばろうね」
「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・」
 なんだもちゃんを、きゅっとつかんだ結人を、なんだもちゃんが、無言のままギュウっと抱きしめた。
 かと思ったら、密に、蹴り飛ばされた。
 無言で宙を舞う、大仏顔のなんだもちゃん。
 悲鳴をあげなかったのは、ゆるキャラの仕事に対するプライドのなせるわざか・・・。
「え?え?密?!なんで、なんだもちゃんをけるの?!」
「ソイツが、結人を抱きしめた。むかつく」
「密!なんだもちゃんは、わるくないよ!」
「結人、なんでソイツを庇うんだ。好きなのか?」
「いきなり蹴る密よりいいよぉだ」
 ぷいっとむくれた結人を前に、密が無表情のまま、ショックで固まった。
 そんな密の頭を、要がこつんと叩いた。
「密、着ぐるみ相手に、妙な嫉妬すんなよな」
「だって・・・中身、男・・・」
「まぁ、そうだろうけど。結人は、なんだもちゃんが気に入ったみたいだな」
「はい!気にいりました」
「ん。じゃあ、ビデオ貸して。誠志ー、撮れ」
 結人からビデオカメラを借りると、遠くで傍観してタバコを吸っていた誠志に、要は放り投げた。
 そして、結人となんだもちゃんの手を握って、バンザイするように、両手を挙げた。
「結人、とびっきりの笑顔な。あと、密と泉介も、なんかポーズとれ」
「かなめさん?」
「結人、カメラ向いて。結人のきらきら、撮らないとな」
 結人はきょとんとした瞳を要に向けていたが、笑いかけてくれる要を見ていて、結人にあわせるように妙な動きで変なポーズを決めてくれる密と泉介を見て、結人はおかしくて、でも、楽しくて笑った。
 結人の記念すべき思い出の記録には、なんだもちゃんとみんなの笑顔が、映った。
posted by ちぃ at 16:33| Comment(0) | TrackBack(0) | 【小説】みんなの休日 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

みんなの休日 5

 なんだもちゃんと楽しそうに遊ぶ結人たちを遠目に見ながら、誠志は、疲れたようにため息を吐いた。
 その横に立っていた要は、「要さーん」と向こうから両手を振っている結人に、笑って手を振り返しながら、誠志を見ずに、けれど、誠志にしっかり釘を刺した。
わざと、低音を出して。
「・・・帰んなよ」
「このテンションのままでいるつもりなら、帰らせてもらう」
「結人は、全員一緒のところを、撮りたいんだ。帰る気なら、関節技きめてでも、止めるからな・・・」
「お前は、どこまでも、日向に甘いな」
「そりゃあ、結人のこと、愛しまくっちゃってるからな。・・・で、お前はどうなんだよ?」
「何がだ?」
「お前もさ、そうなんだろ?」
「なんの話だ」
「なんで隠すかねぇ。・・・結人にいわねぇのかよ?結人、なんだかんだ言って、お前になついてるし、喜ぶと思うぜ?」
「お前の話は、理解に苦しむな」
「ふーん。まぁ、お前も、抱えてるもん多いからさ、あんま言わないけど、早くしないと、オレが誰も、結人に手を出せなくしちゃうぜ?」
 要が、問いかけるように視線だけを向けると、誠志は何も言わずに、タバコを咥えようとしているところだった。
 誠志に、答える気はないらしい。
「まっ、いいけどね。とりあえず、今日は結人に、付き合えよ?結人がさ、笑ってるだろ?結人がああいう笑顔・・・誰かに気を使ってとか嘘ついてとかじゃない、楽しそうな笑顔を出せる、珍しい機会なんだからさ」
「まあな・・・」
「というわけで♪」
 要は誠志を見て、ニッと笑うと、タバコに火をつけようとしていた誠志のライターを、素早く奪った。
 妹からもらったという、誠志愛用のプレミアム品を。
 誠志が、不機嫌そうに何かを言う前に、要は結人たちのほうに向きなおり、その勢いのまま、泉介にライターを放り投げた。
「泉介、誠志の人質ならぬ、物質(ものじち)とったぜ!走れ、俊足ー!」
 そういうと、不思議そうにしている結人の腕をとって、要も走り出した。
「ほら、結人も走るぜ」
「え?え?ど、どうしてですか?」
「いろいろ言って、誠志を怒らせてみたから」
 突然のことに意味が分からず、後ろを振り返ると、誠志が苛立ちオーラを出しまくっていたので、怖くて、結人はとりあえず、いっしょに逃げることにした。
 それに、みんなで走るのは、なんだか、楽しいような気がした。
 やったことないけど・・・子どもの頃、やってみたかった、おいかけっこみたいで、どきどきした。
 でも、気になったので、これだけは、聞いてみた。
「要さん、香守先輩に、なにをいったんですか?」
「んー、内緒♪こういうのは、自分で言わないとね」
「???」
「・・・まぁ、オレは・・・何回も言ってるのに、いまだに、報われてないけどね・・・」
「??????」
 結人の周りに、ぽんぽんぽんと、?マークがいっぱい浮かんだ。
posted by ちぃ at 16:34| Comment(0) | TrackBack(0) | 【小説】みんなの休日 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

みんなの休日 6

 はぁはぁはぁと、結人の息があがったころ、要が「もういいよ」と言って、走るのをやめてくれた。
 人質ならぬ物質(ものじち)をとられた誠志は、とりあえず、帰らずにいてくれるようだ。
 気分屋で自己中心的な割に、世話焼きな誠志のさじ加減は、長い付き合いの要にしか、わからない。
 結人だと、すぐ誠志の逆鱗に触れてしまって、気付いたら・・・いろいろされてしまっている。
 今朝も、うかれて、早朝に、まだ寝ている誠志の部屋を襲撃してしまったから、低血圧で不機嫌だった誠志に、いろいろされかけた。
「結人、ごめんね。大丈夫?」
「か・・・なめ・・・さ・・ん・・・・・・だ・・・だいじょ・・・う・・・ぶ・・・です・・・」
 結人は走りつかれて、座り込んで、ゼイゼイ言っていた。
 その背を、要がゆっくり、なでてくれていた。
 でも、みんな同じだけ走ったのに、みんなケロッとしていて、一人だけ呼吸が荒くなっていて、結人は自分が、情けなくもあった。
「結人、どないしたん?」
 一番身長が近い泉介まで、平気な顔だ。
 くやしい・・・。
 体力がほしい・・・。
 自分だって、男だ・・・。
「会長はん、オレ、腹減ったでー」
「そうだな。結人に水飲ませたいし、どっか入るか。結人、立てるかな?」
「・・・はいぃ・・・」
 心の中の男らしい決意とは裏腹の、弱弱しい情けない声が出てしまう。
 要に支えてもらいながら、結人がよろよろと歩いていたら、カメラをまわしていた密が、ジッと何かを凝視しながら、声をかけてきた。
「結人、あれ・・・」
「あー、なんだもちゃんだ」
 そこには、先ほど別れたはずの、大仏顔のキモイなんだもちゃん(着ぐるみ)がいた。
 今度は、割引券を配っている。
 さすがの要も、驚きの声がでてしまう。
「こいつ、どこにでもいるのな。生息率高ぇよ」
「会長はん、知らへんの?なんだもちゃんは、そこのなんでもバーガーの、マスコットやで」
「ドラッグストアのキャラじゃなかったのかよ?」
「なんでもバーガーは、なんでも屋の姉妹店やで。なんでも屋は、『なんでもそろう、なんでもやろう』が、キャッチフレーズやで」
「なんだ、それ。まあ、いいけど。結人、ここにする?」
 なんだもちゃんのシールが、窓一面に貼られた、不気味なハンバーガーショップを指さす要に、結人は元気に「はい!」と答えた。
 が・・・、
「ちょっと割高やけど、めっちゃおいしいんやでー」
 泉介の言葉に、結人は固まった。
 高い・・・その言葉に・・・。
「会長はん!おごってぇなぁ」
「泉介、お前は、いっつもオレにたかるよな。いいけどさ。あれ?結人、どうした?」
 泉介に引っ付かれている要が、結人の不審さに気付いた。
 結人は、かわいい猫のがま口財布を開けて、逆さまに振っていた。
 中から、ほこりだけが出てくる。
「あ、あの、かなめさん、おれ・・・水だけで・・・いいです」
 しゅんとうつむきながら、「おなかいっぱいだから・・・」とごまかすように付け足したら、誠志に呆れたように、頭をこつかれた。
「日向、お前は、そういうことを言ったら、要が暴走することを、まだ理解してないのか?」
「え?」
「結人、おいで」
「え?え?要さん?」
 要は結人の腕をひいて、ズンズン歩き出した。
 そして、ハンバーガーショップの女性店員の笑顔の前まで行くと、
「お姉さん、とりあえず、全商品持ってきて」
「えええー!か、要さん?!」
「会長はん!金の使い方が、あいかわらず、男前やー。ホレるでー」
「なんだよ、泉介。その言いかたじゃ、金の使い方だけ男前みたいじゃんか?オレはいつでも、いい男だぜ♪な?結人」
「あ、あの、えっと」
「ゆーいと、オレのこと、かっこいいって言ってくれないの?」
「そ、そうじゃなくて、おれ、いつも買ってもらってるから」
「いいのに、気にしなくて。なんなら、お店、貸し切っちゃう?」
 要の暴走をどうしていいか分からず、遠慮してオロオロする結人を撮影していた密が、ボソッとつぶやいた。
「要は、すぐ、貸し切りとかする。金の使い方が荒い。いや、粗いなのか。たまに、考えたほうがいい」
「え?思わぬところから、つっこみきた。どうしたんだ、密?まっとうなこと言って。成長したのか?お兄ちゃんは、うれしいぜ」
 レジカウンターの前で、いつまでもワイワイ騒いでいるみんなを放置して、誠志は一人、長い脚を組んで、席でコーヒーを飲んでいた。
 関わらないようにしていたのだが、その誠志のいる机には、要の大量発注品が、どんどん積まれていくわけで。
 誠志の途中リタイヤは、認められないようだ。
posted by ちぃ at 16:35| Comment(0) | TrackBack(0) | 【小説】みんなの休日 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする