2016年01月21日

みんなの休日 7

 ハンバーガーショップの席に、大量のハンバーガーやらポテトやらジュースを山盛りにしている状態は、当然、大いに目立つわけで。
 けれど、結人たちが注目されている理由は、他にもあるようだ。
 少し離れたところに座っている女子高生のグループだろうか、その子たちが、ノートで顔を隠しながら、チラチラと彼らを盗み見て、きゃあきゃあと囁き合っている。
 ちょっと、顔を赤くして。
「なんや?」
「泉介ー、今日は結人が主役だから、ムシしとけよー」
「へ?会長はん、なんなんや?」
「さあね。あ、結人、イチゴシェイクあるぜ。結人、イチゴ好きだもんな?」
「あ、はい!」
 結人は、要から渡されたイチゴシェイクのストローに、ふっくらとした、かわいい唇をつけた。
 が、シェイクが思いのほか固くて、結人は真っ赤な顔をして、小動物のように、一生懸命がんばってがんばって、吸い始めた。
 それは、あまりにかわいすぎて、全員の表情をデレさせるのに、十分な攻撃力を持っていたが、中でも、密のハートを、激しく打ち抜いたようだ。
「ひ、密?な、なんか、また、顔、近いよ?」
 密は、距離感を、気にしない。
 気付くと、よく、近くにいる。
 至近距離で密に見つめられ、結人は密から視線を外して、少しでも離れようと、首をすぼめた。
 が、密は全く、気にしなかった。
「なんか、結人が、かわいく見える。結人はシェイクを飲むと、かわいくなるのか?」
「ち、ちがうと思うけど」
「シェイクを飲む結人を、もっと見てみたい。けど、学校にはない。寮にもない。困った」
「ひそか?話、聞いてる?」
「困った」
 むむむと、密が考え込んだ時、囁き合っていた女子高生たちが、意を決したように立ち上がった。
 それを目の端でとらえていた要が、テーブルの下で、誠志の脚を蹴った。
「誠志、お前行けよ」
「自分で行け。要がまいた種だろうが」
 長い脚で、誠志が蹴り返してきた。
 ので、さらに蹴り返した。
「誠志じゃねぇの、大女優の息子君?それに、結人に浮気してるように見られたらヤダし」
「バカか」
 とは言っても、押し付けあっている間に、女子高生との距離は近づくわけで。
 ほほえましいじゃれあいを見せてくれる結人たち1年トリオを見て、その空間を壊したくないし、「しょうがない・・・」と呟きながら、要は立ち上がって、女子高生たちに近づいた。
「ほい、そこで、ストップ。何か用?」
「あ、あの、私たち、この近くの学校なんですけど!」
「うん、それで?」
「そっち、男子5人でしょう?」
「私たちも、5人だから」
「そうそう。一緒にお茶でも、どうかなぁって」
 要を取り囲む女子たちは、きゃあきゃあしていた。
 そんな彼女たちに、要はきれいな笑顔を見せ、でも、とんでもないことを、あっさり言った。
 一撃必殺撃退の呪文を。
「ごめんね。オレたち、かわいい男の子にしか、興味ないから」
「・・・・・・・・へ?」
「で、今、そのかわいい男の子とデート中だから、ジャマしないでね」
 それじゃね、と手を振ると、女子たちは席に逃げ帰り、「きゃー」っと驚きと楽しさを混ぜた声を上げだした。
 話題にされた『かわいい男の子』結人は、そんなことが起きてることに、全く気付かず、密に近距離で見守られながら、一生懸命、固いシェイクを飲んでいた。
 泉介が、人生初の逆ナン経験をつぶされたことに気付いたのは、店を出てからだった。
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みんなの休日 8

 お腹がいっぱいになった結人たちは、また、街をぶらぶらしていたが、ふいにきれいな鐘の音が聞こえてきて、誘われるように、そちらに歩いて行った。
 行き着いた先で、結人の瞳は、きらきらに輝いた。
「わぁ!泉介、密、要さん、香守先輩、花嫁さんがいます!」
 やわらかな鐘の音が響いてくる教会から、純白のドレスに身を包んだ幸せそうな花嫁と、その手を支え歩く花婿が、二人そろって出てくるところだった。
 それを、大勢の友人・親戚たちが、祝福していた。
 とても、幸せそうな光景。
「おれ、はじめて見ました。なんか、どきどきします」
 胸を抑えて、誠志のシャツを無意識に引っ張っていた結人の言葉に、密が無表情のまま、ムッとした。
「結人、ドキドキするのか?あの女がいいのか?」
 そんな密の頭を、てしっと、要がはたいた。
「こーら、密。結人のきらきらの、ジャマすんなよな。お、結人、ブーケトスするみたいだぜ」
「要さん、ぶーけ、とす?って、なんですか?」
「花嫁さんが、結婚式で使った花束を、参列した結婚してない女性に投げるんだよ。で、それを取れた人は、次に幸せな結婚ができるって言われてる、って感じかな」
「へぇー。そうなんですね。すごいなぁ」
 誰かを幸せにできる儀式があるなんて、結人には驚きだったし、うらやましかった。
 不幸ばかり人にもたらす自分と違うんだなって、ちょっと、さみしくなった。
「・・・おれのお父さんとお母さんも、こんな風に、結婚したのかな・・・」
 でも、自分が生まれたから、幸せがなくなった。
 辛い目に合わせた。
 それだけじゃなく、死なせてしまった。
(大好きだったのに・・・)
 結人はそう思って、少し、うつむいてしまった。
 それは、みんなに伝染してしまう、暗い感情。
 みんなに気付かれないように気を付けていたが、そんな結人を見ていた要が、明るく結人に言った。
「結人も参加してみない?」
「え?でも、おれ、男だし」
「ちょっと待ってて。聞いてくるから」
 結人の頭を優しく、くしゃっとなでてから、要は参列者の中に走っていった。
 そして、戻ってきたときは、指でオーケーサインを作っていた。
「余興を兼ねて、男も参加でやるらしいから、いいってさ。人数多いほうがいいから、オレたちもぜひにって」
「で、でも・・・」
「ゆーいと。みんなで、花嫁さんを祝ってやろうな?」
「え、あ・・・はい!」
 誰かを幸せにできる。
 結人に笑顔が戻ったのを見て、要も笑った。
「おっし、がんばろうな、結人」
「はい!って、わわ!」
 結人の体が、急に宙に持ち上げられ、気付いたら、密に肩車されていた。
「高いほうがとれる」
「でも、ちょっと・・・は、はずかしいよ、密」
 この年で、肩車されるのも恥ずかしかったが、長身の密が肩車すると、結構高くて、参列者の中で飛びぬけてしまって、かなり目立っている。
「気にするな」
 密は、全く気にならないようだった。
 密には、照れることを覚えてほしいなと思う、結人だった。
 ついでにいえば、密の兄代わりの要にも。
 二人とも、恥ずかしいことを、ためらいもなく言ってくる。
「結人、ブーケトス、始まるみたいだぜ」
 要がそう言った瞬間、花嫁が投げたブーケは、優雅に・・・ではなく、剛速球で、直線状に飛んでいった。
「飛ばしすぎだろ!花嫁!!」
 参列者が総つっこみを入れる中、密に肩車された結人や、結人の為に別ポジションで構えていた要と泉介を一瞬で通り越し、遠くで無関心にタバコを吸っていた誠志の元へ、飛んで行った。
「まったく。俺を、巻き込むな・・・」
 不機嫌そうに煙を吐き出しながら、誠志は、一直線で飛んできた高速ブーケを見ることなく、軽くこぶしで、ぽすっと叩いた。
 軌道を変えたブーケは、弧を描き、ふわりと、結人の手の中に収まった。
「わあ!香守先輩、ありがとうございます!」
 密に肩から下してもらった結人は、手の中のブーケと誠志を交互に見ながら、幸せそうに、にこっと笑った。
 そんな結人の頭を、要が撫でてやった。
「結人、よかったな!(誠志のヤツ・・・いっつもおいしいとこだけ持っていきやがって・・・)」
「はい!おれ、今、すっごく楽しいです!」
 結婚とかは考えたことはないけど、人を幸せにできるものが自分の手の中にあるのが、うれしかった。
 この花束は、あとで、取るのを手伝ってくれたみんなと分けようと、結人がわくわくしていると、今度はブートニアトスを行うと、司会の男が言った。
 その言葉に、結人を好きな男たちの瞳が、本気モードになった。
 ブートニアトスとは、新郎が胸につけている花を、未婚の男性に投げる儀式だ。
 つまり、花嫁のブーケを持つ結人の、お相手とも言える。
 ?と、首をかしげている結人をよそに、ブートニアトスは始まった。
 新郎が投げた胸飾りは、優雅に弧を描く・・・ことなく、剛速球で飛んで行った。
「新郎!お前もかよ!!」
 再び、参列者からの総つっこみが起こる中、運動神経のいい泉介が、宙にある胸飾りに狙いを定めて、重心を落とした。
「よっしゃー。オレが、いただきやでー」
 そう思って飛ぼうとした瞬間、泉介の背中を踏み台にしてジャンプした要が、悠々と胸飾りをとった。
 空中でうまくバランスをとって着地すると、要は、勝利の胸飾りに、チュッと口を付けて見せた。
「悪いな、泉介。結人が、かかってるからな。オレ、本気出しちゃうぜ」
「会長はん、ズルいでー。ハンデくれやー」
「結人のことで、ハンデなんかやらねぇよ。悔しかったら、泉介ももっと、鍛えろよ」
 いくら運動神経がよくても、泉介と要では、鍛え方が違う。
まともに戦うのが、ムリな話なのだ。
 息一つ乱さす、余裕で笑う要を前に、泉介が、くーっと地団駄を踏みだした。
 そんな中、花嫁が、結人に話しかけてきた。
「ありがとう。キミたちのおかげで、すごく盛り上がったわ。みんな楽しそう」
 気付けば、参列者たちが、飛び入りの結人たちに、拍手を送っていた。
 結人は恥ずかしくて、かぁっと火照った顔をブーケに隠しながら、それでも花嫁に「おめでとうございます」と告げた。
「おれが、しあわせのお手伝いできるなんて、すごく、うれしいです。あの、ありがとうございます」
 結人は、深々と、心からのおじぎをした。
 そんな礼儀正しい結人を、花嫁は、ほほえましく思った。
とても温かい気持ちを、もらったと。
 人生最良の日に、とてもいい子たちに巡り合えたと。
「たくさんのステキな彼氏さんたちに、囲まれているのね。ふふ、ブーケの魔法で、きっと、かわいいお嫁さんになれるわ。でも、ステキすぎて、一人に絞るのは大変そうね。お相手はもう、決まっているのかしら?」
 相手と聞かれて答えそうになったが、結人はそれよりも、もっともっと、ずっとずっと、気になったことを、口にした。
「およめさん?えっと、誰がですか?」
「もちろん、キミよ。純白のウエディングドレス、絶対似合うわ。あ、でも、ミニ丈とかも、ステキかも。私もミニ丈着たかったけど、教会だから着れなくて」
 楽しそうに、かわいい結人で想像する花嫁を前に、結人が固まった。
 そんな結人に気付かず、花嫁は、とどめの言葉を口にした。
「でも、女の子なんだから、ギャップがあってかわいいけど、『おれ』なんて言ってると、彼氏さんたちが、ショックを受けちゃうぞ」
 お嫁さん・・・。
 ウエディングドレス・・・。
 女の子・・・。
 その言葉が意味することが分かって、結人はガンとショックを受け、瞳をうるうるさせだした。
「おれ・・・また、まちがわれてる・・・」
「え?なにがかしら?」
「おれ・・・・・・・男です・・・」
「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・え?」
 今度は、花嫁が固まる番だった。
「え?だって、キミが男の子だと、あれ?あっちの子たちも、男の子で?えっと?」
 女の子だと思っていた結人と、どう見ても男の子な密たちを交互に見て、花嫁は混乱しだした。
 会場には、不思議な空気が流れだした。
 それを察した要が、結人の手を優しく握って、走り出した。
 結人が傷つく言葉が出る前に、と。
「行こう、結人。それじゃ、お幸せにー」
 手を引かれながら、結人たちは、教会をあとにした。
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みんなの休日 9

 教会の後も、みんなで、色んなところを見たり、ビデオで撮ったりしてまわった。
 途中で、みんなでアイスを買って、食べながら歩いた。
 アイスの種類がたくさんありすぎて、うれしいけど、どれを選んでいいか分からなくて、悩みに悩んだ末、最初に目に入ったバニラアイスを、結人は選んだ。
 その結人のバニラアイスに、泉介が噛り付いてきて、「間接キスや」と、笑われた。
 物にこだわりのない密は、結人のまねをして、同じバニラアイスを買って、無表情で、もぐもぐしていた。
 要は、結人が口のまわりいっぱいにつけたアイスを、親指の腹でぬぐうと、ペロッと舐めて、いたずらっぽく笑っていた。
 誠志は、アイスではなく、コーヒーを飲んでいた。
 誠志は甘いものが苦手なのだが、その割に、生クリームプレイをされたことあったなぁと、変なことを思い出したりもした。
 そんな感じで、遊びまくって、歩き疲れて、今は学校に戻ってきていた。
 ビデオは、時間ができたら要が編集してあげると言っていたが、結人は待ちきれず、誰もいない生徒会室で、一人でビデオを見ていた。
 機械の使い方を習ったが、分からなくて、とりあえず再生ボタンだけ押してもらって、流れていく、まだ乱雑な状態の画像を見つめた。
 編集してもらったら、もっときれいな物を見れるだろうが、そんなこと気にならないほど、結人がほしかったきらきらに、あふれていた。
「あ、このへん、密が撮ったんだ」
 密が撮ったものは、結人ばかりだった。
 近距離で、撮られている。
 結人のドアップが、次々に出てくる。
 恥ずかしいなと思いながら見ていると、密は、結人の頭をよく撮っているのに、気付いた。
 結人のつむじが、よく映っている。
 身長の高い密が、身長の低い結人を撮ったからだろう。
「そっか。密には、いつも、おれが、こんなふうに見えてるんだなぁ。・・・つむじ・・・」
 結人が、頭のうずまきを、手で押さえていると、結人が撮った密の姿が、画面に広がった。
 密が珍しく笑ったので、急いで撮ったのだが、泉介には、密は笑ってないと言われた。
「最初は、おれも、密の表情、分からなかったもんなぁ」
 密の、無表情の中の表情。
 最初出会った頃には、分からなかった。
 でも、今は分かるようになった。
 出会ってから、ずっと一緒にいて、たくさんたくさん、色んなことを話したから。
「おれの、初めての友達。おれを・・・好きだっていってくれた人・・・」
 密の体の秘密を知った夜、あの日に告白されて、でも、たぶん好きだと言われて、けど、いつの間にか、たぶんを付けなくなっていた。
「・・・おれが好き・・・かぁ・・・」
 こんな自分のどこをと思うけど、聞いたらまた、恥ずかしいことを言われそうで、なんとなく聞けてない。
 また、つむじをなでなでしていたら、今度は画面に、要の姿が映った。
「あ、要さんだ」
 要は、カメラを向けられたのに気付くと、全力の笑顔で、ピースサインをしてくれていた。
 いつも結人にあわせて、雰囲気を明るくしてくれて、気を使ってくれているのに、それを気付かせないようにしてくれる、やさしい人。
「あれ?おれ、また、要さんに、頭なでられてる」
 ジッと見ていたら、カメラに収められた要の行動の4分の3は、結人の頭をなでていた。
 いつの間にか、要に頭を撫でてもらうのが、普通になっていた。
 普通になりすぎてて、こんなになでられていることに、気付かなくなっていた。
「要さんに、頭なでられると、すごく・・・安心する・・・」
 要は、たくさん大変なことを抱えているのに、いやな顔せず、大事に大事にしてくれる人。
 自分自身の痛みなど顧みず、結人を優先して、考えてくれる人。
「おれがこの学校にきて、いちばん最初に・・・おれのこと、好きっていってくれた人」
 要には、たくさん、何度も、好きといわれた。
 最初から変わらず、今でも、好きといってくれる。
「おれのこと・・・おれが汚いこと知ってるのに、変わらないでいてくれる人・・・」
 要が撮った映像は、結人がみんなと笑っているところや、結人が目を輝かせて色んな物を見ているところだった。
 要の優しさは知っているから、それを撮った時、きっと優しい顔してくれてたんだろうなと、結人は思った。
「おれの・・・やさしいお兄さんで、頼れるお父さん。おれが笑っていると、よろこんでくれる人・・・」
 要のことをどう思っているか、本人にいったことはない。
好きっていってくれてるのに、家族みたいに思ってたら、怒られるかな。
「あ、今度は、泉介だ」
 泉介の姿が、映し出された。
 泉介は、今日、みんなでお茶したオープンカフェで、結人が飲んでいたメロンソーダのアイスを、横から盗み食いしていた。
「泉介が『あそこに、ねこがいる』って言った時だ。きづかなかったなぁ。もお!明日会ったら、怒るからなぁ」
 ぷーっと頬をふくらませて見ていたら、アイスを盗った泉介が、自分のさくらんぼを、結人のメロンソーダの中に、こっそりいれている所が映った。
 お詫びのつもりのようだ。
 なんだか、怒りにくくなってしまった。
「んー。まあ、いっか」
 泉介とは、こんな感じのケンカを、よくする。
 でも、すぐに、じゃれあいのような感じになって、本気でケンカしたことはない。
 なんだか、色んなことが、許せるのだ。
 泉介は考えてないようで、やっぱり考えてないけど、でも、いっしょにいると、すごく楽だった。
「おれの初めての、親友・・・」
 たくさんいっしょに笑って、遊んで、ケンカして。
 楽しい時間をくれる人。
 失いたくないって、思える人。
 泉介が撮った映像は、なんだもちゃんをはじめとして、結人が気に入った物が、たくさん収められていた。
 そして、それを見てよろこぶ、結人の姿が。
 すごくなじみがある風景のように思えるのは、きっと、結人と視点が近いからだろう。
 結人より少し身長が高い分、目線は高いが、結人と同じような感覚で、色んなものを見てくれる。
 いっしょに、笑いあってくれる。
 とても、自然に。
「泉介との毎日は、すごく普通な感じ・・・。でも、それがうれしいな・・・」
 結人が一番、自然体でいられる人。
 同じように、差別を受けることがあるのに、それに負けないで、笑ってる人。
 画面は、泉介から切り替わった。
「あれ?さっきから、ときどき、誰が撮ったかわからないのがあるけど、もしかして、香守先輩?」
 誰が撮ってるのかな?と思っていたが、今、誠志以外のみんなで話している姿が映っていたので、誠志が撮っていたのだろう。
「知らなかった。いっぱい、撮ってくれてたんだ」
 今日、ずっと不機嫌そうで、帰りたそうにしていた誠志が、意外なほど映像を残してくれていたことに驚いて、そして、うれしくなった。
 誠志は、こんな感じの人だ。
 いつの間にか、助けられている。
 怖くて寂しくて、支えがほしくなって、近くにいる人のシャツをつかんだら、それが誠志だったことは多い。
 いつの間にか、誰かにいてほしい場所に、いてくれている。
「最初は・・・怖い人だと思ってたけど・・・」
 でも、今は、それだけじゃないと、感じている。
 二人だけでいる時、ふいに、優しくしてくれることがある。
 この間、生徒会室で要の帰りを待っていた時、嵐がきて、雷と風がひどくて、停電までして、怖くなって部屋の隅で震えていたら、何も言わずに抱きしめてくれた。
 嵐が過ぎるまで、ずっと。
 あの時、電気がつかなくて、暗くて、誠志の表情は見えなかったけど、すごく安心した。
 誠志の胸板の筋肉の向こうから、トクントクンと、鼓動が聞こえてきた。
「いっぱいいじわるされるし、おれのこと、どう思っているかわからないけど・・・」
 誠志が撮った映像には、一人で立っていると、すぐに誰かが話しかけてくれる結人の姿が映っていた。
 と思っていたら、カメラに、要がひょこっと映りこんできた。
「ゆーいと。誠志はな、こんな風に、結人が一人になってないか、ちゃんと見ててくれてるんだぜ」
 そう言った瞬間、映像が激しく乱れた。
 すごい激突音もした。
 誠志がカメラで、要を殴ったようだ。
 びっくりしたが、カメラは壊れてなかったので、いつもの二人のように、本気で殴りあったりはしていないのだろう。
「そっか・・・。香守先輩って、そんな風に、おれを・・・見ててくれてたんだ・・・」
 うれしかった。
「・・・香守先輩は、要さんの一番の理解者。・・・でも、おれのことも、すごくわかってくれる人・・・」
 結人は、それからも、ジッと、映像を見続けた。
 今日は本当に、たくさんの物を見てきた。
 たくさんのことを、撮った。
 みんなと一緒に。
 撮りたかったきらきらが、いっぱいだ。
「・・・あ・・・」
 結人が画面を見て、思わず声を出した。
 映像が突然、終わったから。
 今日、連続使用しすぎて、途中で充電が切れたのだ。
 誠志の車に急いで戻って、充電しなおしたけど、帰るまでには間に合わなかった。
 画面は真っ暗になったけど、結人はそこから、目を離さなかった。
 撮れなかったけど、何があったかは、全部覚えている。
 頭悪いけど、がんばって覚えた。
 みんなが、いっしょにいてくれた時間を。
 そして、映像に撮ったからこそ分かった、みんなが結人を、どう見てくれているか。
「みんな、おれを撮ってくれてたんだ。・・・おれはね」
 結人は、一度、言葉を切ってから、
「おれは・・・みんなを、撮ったよ」
 何も映っていない画面に、結人は笑いかけた。
「・・・この学校にきてから、たくさんのことがあった・・・」
 たくさん・・・泣いた。
 悲しいことが、あまりにもあったから・・・。
「・・・でもね・・・」

 おれなんかと、話してくれた。
 おれみたいなのに、笑ってくれた。

 助けてくれた。
 好きっていってくれた。

 おれに、たくさんたくさん、やさしくしてくれた。

 だから、

「ありがとうです・・・」


 いつか、幸せな時間は壊れるって、おれは知ってるけど、

 でも・・・、

 大事な思い出、いっぱい撮ったから、

 おれは、ここに、やり直しにきたんだから、

 おれ、

 がんばるね・・・。


 まけそうになったら、また、このきらきらした映像を、見にくるから。
posted by ちぃ at 16:41| Comment(0) | TrackBack(0) | 【小説】みんなの休日 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする